2024年10月30日、ロシアに派遣された北朝鮮の部隊をめぐって、ウクライナの要請で国連安保理の緊急会合が開催された。
このなかで、ウクライナのセルギー・キスリツァ国連大使は、最大で1万2000人もの北朝鮮の兵士がロシアの東部軍管区の5か所で訓練を受けていることを明らかにした。
さらに、10月23日から28日にかけて、それらの場所から少なくとも7機の航空機が最大2100人の兵士を乗せてウクライナ国境まで移動したとする情報も明かした。
そのうえで、「11月には北朝鮮の兵士がウクライナ軍に対する戦闘に直接参加し始めると予想される」という見方を示した。
あるいは北朝鮮兵士は既に参戦しているかもしれない。
一方、ロシアのワシーリー・ネベンジャ国連大使は「ロシアと北朝鮮の軍事その他の分野での交流は、国際法に沿ったものだ」と主張し、「誰も禁止することはできない」と反論した。
また、北朝鮮の金星(キム・ソン)国連大使は部隊の派遣には直接言及しなかったものの、「もしロシアの主権と安全保障上の利益が米国と西側によって脅かされ、何らかの対応をすべきだと判断された場合には、我々は必要な決定を下すことになる」と述べた。
ロシアのネベンジャ国連大使と北朝鮮の金星国連大使のこの発言は、今回の派遣は2024年6月にロシアと北朝鮮が締結した「包括的戦略パートナーシップ条約」に基づくものであり国際法違反でないことを主張している。
同条約の第4条には、「ロシア、北朝鮮のいずれかが武力侵攻を受け、戦争状態に陥った場合、遅滞なく、保有するあらゆる手段で軍事的、その他の援助を提供する」と明記されている。
しかし、ロシアのウクライナに対する侵略は、2022年3月2日の国連総会において採択された決議(ES-11/1)において、国際社会により、少なくとも193加盟国のうち141か国により、国連憲章違反、すなわち国際法違反であると断じられている。
従って、ロシアの国際法違反行為に加担する北朝鮮の行為は共同正犯であり、同様に国際法違反であると筆者は考える。
さて、北朝鮮がウクライナ戦争に軍部隊を派遣したことは、ロシアと北朝鮮の同盟関係が深まっていることを意味し、欧州や東アジアの安全保障に与える影響は大きい。
欧州には世界最強の同盟であるNATO(北大西洋条約機構)が存在するので、欧州の安全保障には大きな影響を与えないであろう。
一方、東アジアの安全保障に与える影響は大きい。
将来、朝鮮半島で武力衝突が起きた場合には、ロシアが北朝鮮側で参戦することが理論的にあり得るからである。
朝鮮戦争(1950年6月25日~1953年7月27日)の時、北朝鮮に戦争をけしかけたヨシフ・スターリンは、金日成からの援軍派遣を断り、中国に支援を依頼するよう助言した。
中国は人民解放軍を「人民義勇軍」という志願兵の形で朝鮮半島に派遣した。
スターリンは、終始米国との正面衝突を避けるため、金日成を直接支援はせずに、戦闘機パイロットを秘密裏に参戦させただけだった。
このため、ソ連は休戦協定のメンバーに入っていない。
しかし、露朝軍事同盟の登場により、近い将来、朝鮮半島で武力衝突が起きた場合にロシアの参戦を想定しないわけにいかない。
ところが、現行の国家防衛戦略には、朝鮮半島有事の際のロシアの参戦は想定されていない。従って、国家防衛戦略の見直しが必要になるかもしれない。
以下、初めに「包括的戦略的パートナーシップに関する条約」の概要について述べ、
次に、軋轢が生じる中朝関係について述べ、最後に軍事同盟に回帰する露朝関係について述べる。