1.「包括的戦略的パートナーシップに関する条約」の概要
(1)概要
2024年6月19日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は北朝鮮を訪問し、金正恩・朝鮮労働党総書記と「朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦との包括的戦略的パートナーシップに関する条約」(以下、「包括的戦略パートナーシップ条約」)に署名した。
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は6月20日、「包括的戦略パートナーシップ条約」の全文を伝えた。
前文には、「覇権主義的な野心や一極的な世界秩序の押し付けに対抗し、国家間の誠実な協力、相互利益の尊重、国際問題の集団的解決、文化的・文明的多様性、国際関係における国際法の優位性に基づく多極的な国際システムの確立を目指し、共同の努力で人類の存在を脅かす恣意的な挑戦に対処することを確認している」とある。
米国への対抗姿勢を明らかにしている。
23条からなる条約の第4条には、「一方が個別国または複数の国から武力侵攻を受け戦争状態になった場合、国連憲章第51条と朝鮮民主主義人民共和国とロシア連邦の法に基づき、直ちに自国が保有するあらゆる手段を用いて軍事的およびその他の援助を提供する」との内容が盛り込まれている。
この条項は、1961年に北朝鮮とソ連が締結し、1996年に失効した「友好協力相互援助条約」第1条とほぼ同じ内容である。
また、北朝鮮とロシアは一方の国に「武力侵略行為が行われる直接的な脅威」が発生した場合は、脅威を除去するための協力措置に合意する目的で、交渉窓口を「遅滞なく」稼働させることを第3条で定めた。
第8条には「戦争を防ぎ、地域的・国際的平和と安全を保障するための防衛能力を強化する目的の下、共同措置を取るための制度を設ける」と記された。
第10条には「締約国は、宇宙、生物学、平和的な原子力エネルギー、人工知能、情報技術などの分野を含む科学技術の分野での交流および協力を発展させ、共同研究を積極的に奨励する」と記された。
条約の効力は無期限で、効力停止を望む場合は相手側に書面で通知すれば1年後に効力が停止される。