2.軋轢が生じる中朝関係

(1)悪化する中朝関係

 中国の税関当局が2024年1月18日に発表した貿易統計によると、中国と北朝鮮の間の輸出と輸入を合わせた2023年1年間の貿易総額は、約22億9500万ドルであった。

 これは前年、2022年の額から2倍以上に増え、新型コロナウイルスの感染拡大前の2019年と比べて8割の水準に回復した。

 北朝鮮は、ロシアと軍事協力を深める一方、中国とは経済関係を維持する姿勢を示している。

 さて、北朝鮮外務省報道官は2024年5月27日の談話で、日中韓首脳会談の共同宣言が「朝鮮半島の平和と安定」「非核化」に言及したことを「内政干渉」「主権侵害」と非難した。

 中国に対する個別の批判は避けたものの、談話が中国も対象としているのは間違いない。

 中国が北朝鮮やロシアと一定の距離を置きながら、北朝鮮が「主敵」と見なす韓国を含む米国陣営とハイレベルの交流を続けていることに対し、北朝鮮は不信感を強めている。

 一方、中国は米国の「覇権主義」にはあくまで反対で、そのためにロシア・北朝鮮と連携する方針は不変だが、ロシアのウクライナ侵攻や北朝鮮のミサイル発射などを全面的に支持して、米国に対中包囲網強化の口実を与えることも避けたいと思っている。

(2)ロシアに傾斜する北朝鮮

 このように中朝の利害が食い違う中で、北朝鮮は6月19日、来訪したロシアのプーチン大統領と「包括的戦略パートナーシップ条約」を締結し、軍事同盟を復活させた。

 金正恩総書記が中国よりロシアを頼る姿勢を鮮明にしたことなどから、朝鮮戦争を共に戦い「血で固めた友情」を誇ってきた中国と北朝鮮であるが、両国の間にすきま風が吹いているという見方が出てきている。

 また、北朝鮮がロシアとの関係強化で中国に対して自国の立場が強くなったと考え、中国をあまり気遣わなくてもよいと考えている様子が見られ、これが中国をさらにいら立たせていると見られる。

 一例としては、今回のロシアへの派兵についても中国との事前調整はなかった模様である。

 米国務省のマシュー・ミラー報道官は10月28日、記者会見でロシアに北朝鮮の部隊が派遣されているとして、中国と協議し、懸念を伝えたことを明らかにした。

 米政府が中国と協議したと明らかにしたことについて、中国外務省の林剣報道官は10月29日の会見で、「関連の状況について承知していない」とだけ述べ、米側と協議が行われたのかどうかについての確認を避けた。

 北朝鮮のロシアへの派兵に関する中国の公式の反応であるが、11月1日開かれた中国外務省の記者会見で林剣報道官は「北朝鮮とロシアは独立した主権国家であり、2国間関係をどのように発展させるかは彼ら自身の問題だ。中国は双方の交流と協力の具体的な状況を把握していない」と述べ、両国の関係について、干渉しない姿勢を示した。