2.「平和のための結集決議」(決議377A)

(1)全般

「平和のための結集(Uniting for peace)決議」(決議377A)は、1950年6月の朝鮮戦争勃発後、中国代表権問題のために年初から安全保障理事会を欠席中だったソ連が8月に議長国として戻り、安保理における審議が拒否権の行使により行き詰まったのを受けて、総会で米、英、仏、加、比、トルコ、ウルグアイの共同提案により採択されたものである。

(投票結果は52-5(反対:ソ連、チェコ・スロバキア、ポーランド、ウクライナ、ベラルーシ)-2(棄権:印、アルゼンチン)

 決議の核心は次の主文第1段落である。

「平和への脅威、平和の破壊または侵略行為があると思われる如何なる事案においても、安全保障理事会が、常任理事国間の一致がないために国際の平和と安全の維持に関する主要な責任を遂行できない場合には、総会は、集団的措置(平和の破壊または侵略行為の場合には、必要であれば軍隊の使用を含む)について加盟国に適切な勧告を行うことを目的として、その問題を直ちに審議しなければならない」

「総会が会期中でない場合には、そのための要請があってから24時間以内に緊急特別会期(ESS)で会合することができる」

「このESSは、安全保障理事会の理事国15か国(現在、常任理事国5か国、非常任理事国10か国)のいずれかの9か国の投票に基づく要請、または国連加盟国の過半数の要請があったときに招集される」

(2)これまでの緊急特別会期(ESS

「平和のための結集」決議を根拠とするESSは、過去に第1会期(1956年招集、スエズ危機)、第2会期(1956年、ハンガリー動乱)、第3会期(1958年、レバノン情勢)、第4会期(1960年、コンゴ動乱)、第5会期(1967年、第3次中東戦争)、第6会期(1980年、ソ連のアフガニスタン侵攻)、第7会期(1980年、パレスチナ情勢)、第8会期(1981年、ナミビア情勢)、第9会期(1982年、中東情勢)、第10会期(1997年、パレスチナ情勢)及び第11回会期(2022年、ウクライナ情勢)となる。

 現在第10会期(暫時休会から再開)と第11回会期が開催されている。

(3)第11回緊急特別会期における決議

 これまでに、第11回緊急特別会期において、次の6つの決議がなされている。

①ES-11/1(2022年3月2日):「ウクライナに対する侵略」(または非難決議) 

賛成141、反対5、棄権35、欠席12、合計193

②ES-11/2(2022年3月24日):「ウクライナに対する侵略がもたらした人道的結果」

賛成140、反対5、棄権38、欠席10、合計193

③ES-11/3(2022年4月7日):「人権理事会におけるロシア連邦の理事国資格停止」

賛成93、反対24、棄権58、欠席18、合計193

④ES-11/4(2022年10月12日):「ウクライナの領土保全:国際連合憲章の原則を守ること」

賛成143、反対5、棄権35、欠席10、合計193

⑤ES-11/5(2022年11月14日):「ウクライナに対する侵略への救済と賠償の推進」

賛成94、反対14、棄権73、欠席12、合計193

⑥ES-11/6(2023年2月24日):「ウクライナにおける包括的、公正かつ永続的な平和の基礎となる国際連合憲章の原則」(または撤退決議)

賛成141、反対7、棄権32、欠席13、合計193

 直近の決議(ES-11/6)ではロシアの戦争犯罪に対する「調査と訴追」の必要性を初めて明記したが、決議はウクライナのゼレンスキー大統領が求めていた「特別法廷の設置」など具体的な方法には言及しなかった。

 過去には旧ユーゴスラビアの戦争犯罪やルワンダの虐殺などで特別な法廷が設置されたが、いずれも安保理の決議に基づいていた。

 拒否権を持つ常任理事国であるロシアに対して特別法廷で裁くのは難しいとの見方があるが、筆者は、まさにそのような時こそ、「平和のための結集(Uniting for peace)決議」に基づき緊急特別総会を開催し、国際社会の総意に基づき特別法廷を設置すべきであると考えている。