令和6年度富士総合火力演習(陸上自衛隊のサイトより)

 日本には、世界各国の予備役制度に相当する制度として、予備自衛官制度がある。しかし、その規模や対人口規模は極めて過少で、特に周辺国との格差は大きい。

世界各国の予備役と正規軍の対人口兵員比率の比較

 諸外国の予備役の兵力が、総人口や経済規模(GDP)、あるいは正規軍の兵員数に対してどの程度の比率になっているかについて、『2023年ミリタリー・バランス』のデータに基づきまとめると以下のようになる。

軍事費と兵員数の国際比較(2022年時点)

注1: 日本の準軍隊として海上保安庁約1.7万人が算定されている。しかし、海上保安庁法第二十五条において、「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と規定されており、準軍隊として算定することはできない。したがって兵員総数は30.0万人になる。その場合の総兵員数の対人口比率は、0.240%になる。

注2: 中国の場合は民兵制度があり、『平成30年版 防衛白書』では、中国軍の「民兵」について、以下のように記されている。「平時においては経済建設などに従事するが、有事には戦時後方支援任務を負う」。国防白書『2002年中国の国防』では、「軍事機関の指揮のもとで、戦時は常備軍との合同作戦、独自作戦、常備軍の作戦に対する後方勤務保障提供及び兵員補充などの任務を担い、平時は戦備勤務、災害救助、社会秩序維持などの任務を担当する」とされる。2012(平成24)年10月9日付『解放軍報』によれば「2010年時点の基幹民兵数は600万人とされている」。その後の中国軍の民兵の数についての発表はないが、600万人前後の民兵の動員は可能とみられ、民兵の任務は国際標準では後備役に当たる。民兵を加算すれば、予備役と準軍隊の合計数は701万人となり、正規軍と計904.5万人、総人口に対する比率は0.638%となり、米国あるいは世界平均並みになる。

注3:『2023年ミリタリー・バランス』によれば、北朝鮮には準軍隊(著者注:労農赤衛軍を指すとみられる)が約570万人いると見積もられている。これを加えると総兵員数は776.9万人となり、対人口比率は、29.93%と世界一の高比率となる。

注4:2022年の世界人口については、国連人口基金が発表した『世界人口白書2022』に基づき、79億5400万人として、比率を出している。中国の民兵600万人と北朝鮮の準軍隊570万人を加えると、総兵員は6490万人となり、対人口比率は0.816%となる。こちらが実態に近い数値とみられる。その場合の日本の海上保安庁を除く兵員比率0.240%は、世界平均の3.34分の1となる。

 前記の表『軍事費と兵員数の国際比較』から、以下の点が指摘できる。

①日本の海上保安庁を除いた兵員の対人口比率は、世界平均の2.5分の1、中朝の民兵、労農赤衛軍などを加えると3.34分の1に過ぎない。

②日本周辺国の北朝鮮、韓国、台湾の総兵員数の対人口比率は、7%以上に達し、世界的にもイスラエルを除き例のない高密度となっており、数百万人の予備役と準軍隊を保有している。

 中国も民兵を加えれば、世界平均並みの動員兵力を擁している。

 北朝鮮も労農赤衛隊などの準軍隊を加えると総人口の約3割と、世界一の比率になる。

 朝鮮半島も台湾海峡も、ともに多数の兵力を動員可能な態勢を維持し厳しい対峙を続けていることは明らかであり、その中で日本だけが、世界平均の約3分の1の低い比率にとどまっている。

④ウクライナ戦争中のロシアでも、北朝鮮、韓国、台湾の比率の3分の1だが、米国の比率に比べると約3.5倍になる。

⑤米国の兵員比率は世界平均並みだが、英仏独など欧州先進国は世界平均より兵員比率は少なく、ウクライナ戦争継続中でも、欧州の兵員比率は伸びていない。

⑥インドとパキスタン、インドと中国は、ともに世界平均以上の動員可能兵員比率を維持しており、対峙を続けている。

⑦イスラエルは総人口の7%以上、イランも世界平均の1.8倍の動員可能兵力を擁し、厳しい対峙を続けている。

⑧1人当たり軍事費では、米国は戦争をしているロシアの約4.8倍、英国は2.2倍、イスラエルは4.6倍を使っている。韓国は日本の2.1倍、台湾は1.8倍、イランは1.3倍を使っている。