日本が弾道ミサイル搭載型原潜を建造する日はそう遠くないかもしれない(写真は2024年2月11日、紅海に展開する米弾道ミサイル原潜「フロリダ」、米海軍のサイトより)

 ウクライナ戦争は収束の兆しが見えてきたが、まだ予断を許さない中、中東ではハマスとイスラエルの戦争が長期化している。

 北東アジアへの波及も懸念されている。このような世界的な戦火拡大の中、核の拡散と使用の脅威も高まっている。

ロシアの核ドクトリンと行使される核恫喝

 公表されたロシアの軍事ドクトリンによれば、ロシアは核兵器を使用するシナリオとして次の4条件を規定している。

1:ロシアまたはその同盟国に対する弾道ミサイルによる攻撃が確認された場合
2:ロシアまたはその同盟国に対する核兵器またはその他の大量破壊兵器による攻撃が行われた場合
3:ロシアの核兵器の指揮統制システムを脅かす行動がとられた場合
4:ロシア連邦が通常兵器で攻撃され、国家の存立そのものが脅かされる場合

 このドクトリンに従えば、もしドンバスなど4州がロシア連邦に併合されれば、4により通常兵器による攻撃でも核使用のおそれがある。

 そのことは、4州併合の既成事実化を企図したものと言えよう。

 また、ウクライナ戦争開始後も、ウラジーミル・プーチン大統領は戦略的な目的をもって何度も核恫喝とみられる発言を繰り返している。

 開戦直前の2022年2月7日、プーチン大統領は、仏エマニュエル・マクロン大統領との会談で「ロシアは核保有国だ。その戦争に勝者はいない」と述べている。

 また、同年2月19日、核弾頭搭載可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)と極超音速巡航ミサイルの大規模な発射演習を行い、「全弾が目標に命中した」と発表している。

 プーチン大統領の指揮のもと、戦略的抑止力の向上のためとして、核戦力を運用する航空宇宙軍や戦略ミサイル部隊などが参加し、ミサイルの発射演習を実施し、極超音速ミサイル・キンジャールは阻止が困難で、かつ精度が高いと誇示している。

 この段階では、戦争回避のための最終的なNATO(北大西洋条約機構)側に対する、核戦力の誇示による抑止を試みたととることもできる。

 しかし半面、戦争回避困難とみて、核打撃力を実地に最終確認することが主たる狙いだったとみられる。

 ついに、2022年2月24日、プーチン大統領は「住民を保護するため」との理由でウクライナ東部における特殊な軍事作戦の遂行を決断したと発表し開戦に踏み切った。

 プーチン大統領は、その際のテレビ演説で「外部からの邪魔を試みようとする者は誰であれ、そうすれば歴史上で類を見ないほど大きな結果に直面するだろう」と語り、核兵器の使用も辞さない構えを再び示唆している。

 さらに、「現代のロシアはソビエト崩壊後も最強の核保有国の一つだ。ロシアへの直接攻撃は、潜在的な侵略者にとって敗北と壊滅的な結果をもたらす」と述べ、核抑止力部隊を特別警戒態勢に置くよう命じている。

 その後、ロシア側が火力消耗戦をウクライナ側に強いる態勢になり、2023年6月からのウクライナ軍の攻勢は、一部米軍筋の見方ではウクライナ軍が30万~40万人の戦死者を出すほどの大損害を被り、同年11月末には失敗に終わったとみられる。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、攻勢開始直後の2023年6月には「攻勢は困難な作戦である」ことを認めていた。

 同年10月にNATO事務局長は、ウクライナ軍の弾薬がほぼ尽きかけていると表明、11月にはウクライナのヴァレリー・ザルジニー総司令官が「戦線は膠着状態にある」と述べ、ロシアが長期戦を有利に進めることへの危機感を示した。

 同総司令官はまた、欧米から現在支援を受けている兵器だけではロシアに勝てないとの認識も表明している。

 ウクライナ軍は同年12月頃から防勢に転移し、東部ドンバスの要衝アウディイフカからも2024年2月には撤退を余儀なくされた。

 そのような情勢下2023年以降、フィンランドとスウェーデンがNATOに加盟し、2024年2月にフランスのマクロン大統領が、ウクライナへの部隊派遣を排除しないと述べるなど、NATO側の強硬姿勢が強まっている。

 これに対し、プーチン大統領は、同年3月のロシア議会に対する教書演説に際し、ロシアの戦略核戦力はその準備を完成させている、欧米はロシアが欧米を攻撃する能力を持っていることを認識すべきだと、核恫喝をかけ、NATO側の強硬姿勢を牽制し、交渉条件を下げさせることを狙いとするとみられる発言を行っている。

 これらの一連の発言も、核恫喝によりウクライナ側を早期に屈服させ、中立化、非軍事化、非NATO化を実現し、ロシア系住民を保護するという戦争目的達成を狙ったとみられる。

 2023年4月にフィンランドがNATOに加盟した。

 これに先立ちロシアは、同年3月に、ベラルーシ国内への核兵器の配備について合意したと発表している。

 さらに2024年3月にはスウェーデンがNATOに正式加盟した。

 この動きに対抗しロシアは、フィンランドと地続き国境となるスカンジナビア正面の兵力を増強するとともに、同正面の核兵器を増強している。

 また、西部軍管区をサンクトペテルブルグ軍管区とモスクワ軍管区に分け、スカンジナビア・バルト正面とウクライナ正面の管轄を二分し指揮運用態勢を強化している。

 今後、ウクライナ戦争はロシア勝利の可能性が高まり、停戦交渉に向け有利な態勢を作るため、戦闘は今後も熾烈に展開されるとみられるが、外交交渉が活発化するであろう。

 その際に、外交的圧力として、ロシアと米国の双方が核恫喝をかける可能性が高まっている。

 また、追い詰められたウクライナ側が、放射性物質を爆薬で飛散させるダーティボムを使用し、あるいは化学・生物兵器の使用に踏み切るおそれもないとは言えない。

 ドローンや特殊部隊などによる散布もありうる。

 停戦が近づくほど、相手側に休戦条件を下げさせ、あるいは劣勢な側が態勢を少しでも挽回するため、核をはじめ大量破壊兵器による恫喝やそれらの使用に踏み切る誘因が高まる。

 今後とも注意が必要である。