迫られる日本の核政策転換

 ウクライナ戦争以降世界は、各国がそれぞれの国益をかけて離合集散する群雄割拠時代に入っている。

 戦後日本が長らく採ってきた、核抑止力以下安全保障の根幹を米国に依存するという安易な米国追従政策は通用しない時代になっている。

 ウクライナ戦争により、ロシアと中国は戦略的パートナーシップ関係を強めている。

 世界一の人口を持つ中国と世界一の領土を持つロシアを同時に相手にすれば、米国は戦略核戦力において、中ロに対し2対1の劣勢になると、米国の専門家は評価している。

 この劣勢を解消するには、中ロの連携を断ち切るしかないが、今のところその見通しは立っていない。

 中距離核戦力(INF)については、米ソ/米ロが1987年から2019年までの間、INF全廃条約によりその開発・配備を中止している間に、中国は西太平洋を覆うINFを一方的に開発・配備してきた。

 今日では中国は、巡航ミサイルも含めると2000発前後のINFを展開しているとみられている。

 その射程は、日本、台湾、フィリピンから南シナ海の「第1列島線」といわれる地域を完全に覆い、小笠原諸島からグアムを結ぶ「第2列島線」を超える地域にまで達している。

 そのため、米空母も第2列島線以西には容易に接近できず、第1列島線以西の東シナ海、南シナ海には入れなくなっているとみられ、中国の西太平洋におけるINF戦力は米国に対し優位にある。

 戦術核について、中国の保有数は不明だが、ロシアは約2万2000キロの国境線を少ない兵員で守るため戦術核の配備をソ連時代から重視しており、今日でも1800発程度を保有しているとみられている。

 他方、米国は戦術核兵器を平時から多数展開しておくと偶発的戦争や事故の可能性を高めることから300発から500発程度しか保有していないとされ、主力は米本土に保管されている。

 このため戦術核も、中ロに対し約4分の1以下の劣勢になっている。

 このように、中ロが連携していることを前提にすれば、米国の核戦力は戦略・戦域・戦術の各レベルで劣勢になっている。

 核戦略バランス上からは、米国の核の傘は機能しない、東京を守るためにニューヨークに核攻撃を受ける危険にさらすような意思決定は、米国大踏力としてできない情勢にすでになっている。

 さらに、米国内では、核インフラの劣化に伴う核戦力の空洞化の危機がジョージ・W・ブッシュ大統領の頃から叫ばれていた。

 米国は冷戦終結以降1992年以来一度も核実験を行わず、新しい核弾頭の設計・開発・製造も行っていない。

 他方で、核弾頭は種々の核分裂物質などから構成され、年々それらの物質は劣化し核弾頭の信頼性も低下していく。

 ほぼ20年経過すると設計通りの出力が発揮できるか、その信頼性が疑われるほど劣化が進むと言われている。

 また核弾頭の運搬手段である、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、戦略爆撃機、SSBN(弾道弾搭載原子力潜水艦)というトライアッド(3本柱)と言われる兵器システムについても、1970代から80年代に開発配備されたものが、いまだに主用されており、老朽化している。

 ICBMの移動化についても空軍は要求しているが予算不足でまだ実現していない。

 2021年4月、米戦略空軍のジェームズ・リチャードソン司令官は、ロシアも核兵器近代化を進めており「ロシアが近代化を80%完了しているのに対し、われわれはゼロだ」と危機感をあらわにしたと報じられている(「日本経済新聞」2021年4月21日)。

 米国の核の傘が信頼性を失っている今日、非核三原則や専守防衛という、日本が自主的に自衛力を抑制していれば、日本の安全は保障されるという虚構に安住できる時代ではない。

 日本は自らの力で自国を守れる体制に早急に転換しなければ、もはや自国の存続すら危うくなる時代になっている。

 日本も少なくとも、韓国や豪州に倣い、原潜の開発配備に踏み切るべき時にきている。