長引くハマス・イスラエル戦争

 ウクライナ戦争が終結の見通しの立たない中、中東でも新たに戦端が開かれた。

 2023年10月7日のハマスによる奇襲攻撃から始まった中東での戦いは、同年11月には4日間の戦闘の一時休止に合意し一部の人質は解放された。

 しかしその後、イスラエル軍は戦闘をガザ地区南部にも拡大し、パレスチナ側の死者数は2024年2月末には3万人を超えたとガザ地区の保健省は表明している。

 その約4割は子供とみられており、米国も含め世界各国でイスラエルに対する非難が高まっている。

 2024年3月にも戦闘の休止をめぐる交渉は続けられているが、ハマスは戦闘の休止の持続を要求している。

 他方、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の率いるイスラエルの現政権は、ほぼ全閣僚が強硬派から構成されており、休止後は戦闘を再開し継続するとの姿勢を崩していない。

 ネタニヤフ政権は戦争目標として、ハマスを殲滅し再び脅威になることのないようにするとともに、ガザ地区全土を制圧することを掲げており、目標を達成するまでは戦闘を続けるとしている。

 同政権は、国際社会の多くが和平案として推奨しているパレスチナを国家承認し共存する「二国家解決」案を拒否している。

 しかし、ハマスのガザ地区での地下陣地は数十年にわたり準備されたものであり、最深部は地下90メートル、総延長500~700キロとも言われている。

 このような地下陣地をイスラエル軍が通常戦力で制圧するには、モスルの戦闘などの経過から見ても、少なくとも数か月、あるいは1年以上かかるとみられる。

 イスラエル軍は、民間経済を支える予備役の将兵を主体に構成されているため、数か月以上の長期戦を続けると経済が破綻する。

 さらにパレスチナ人労働者も雇用できなくなっているため、労働力が不足している。

 現に今年のイスラエルの国内経済の成長率は昨年同期に比べ約4分の3に、投資は約3分の1に落ち込んでいる。

 今後も長期戦が続けばイスラエル経済は破綻するであろう。

 イスラエル側は早期にハマス陣地を制圧する必要に迫られている。そのためには、地下数百メートルまで一挙に破壊できる核爆弾を使うのが軍事的には最も確実かつ効果的な方法である。

 それを裏付けるように、ネタニヤフ政権内の閣僚が、ガザへの核兵器使用は選択肢の一つと発言し、停職処分を受けたと報じられている。

 このことは、イスラエルが核保有を初めて公式に認めたに等しく、ある意味では核恫喝を、ハマスやそれを支援するアラブ諸国、イランとその支援を受けたヒズボラ等に対してかけたとも言える。

 ネタニヤフ政権の強硬方針を抑制しようとしている、米バイデン政権への牽制ともとれる。