米国を訪問してトランプ大統領と会談したマルク・ルッテNATO事務総長(3月13日、NATOのサイトより)

米国はNATOから撤退するのか?!

 北大西洋条約機構(NATO)は、集団的防衛ならびに平和および安定の維持のための努力の統合を決意し、12か国の原加盟国をもって第2次大戦後の1949年に設立された。

 現在、加盟国は32か国に拡大し、今年で設立76年を迎えた世界で最も由緒ある軍事同盟である。

 その役割について、かつてNATO事務総長を務めた(1952~57年)ヘイスティングス・イスメイ卿(英国の軍人・政治家)が、「米国を中にとどめ、ロシアを締め出し、ドイツを抑える」(keep the American in, the Russian out and the German down)と表現したのはあまりにも有名である。

 その中で主導的役割を果たしてきた米国が、NATO欧州連合軍最高司令官のポストの放棄を検討しているという。

 3月19日付ブルームバーグが米国防当局者2人からの情報として伝えた。

 第2次世界大戦でノルマンディー上陸作戦を指揮し、のちに米大統領となったドワイト・D・アイゼンハワー氏が初代司令官に就任して以来、約76年にわたり米軍の大将クラスが司令官を務め、現在も米欧州軍司令官のクリストファー・カボリ陸軍大将が同司令官を兼任している。

「ドイツを抑える」という役割は、遠い過去のものとなった。

 しかし、今年1月、米国にドナルド・トランプ大統領が誕生し、「ロシア締め出し」については、欧州各国との間に情勢認識や外交的・戦略的なアプローチに大きな亀裂が生じている。

 トランプ政権は、「中国を最大の脅威」と見なしロシアに接近・宥和的な姿勢を示す一方、NATOに対しては懐疑的な見方や、分断をますます深めるような言動を重ねている。

 その文脈でのNATO欧州連合軍最高司令官のポストの放棄は、NATOの態様に重大な変化をもたらす恐れのある象徴的な出来事と見ることができる。

 背景には、米国のNATO脱退の意図が秘められているのではないかとも推測される。

 そうして、約10万人弱とみられる在欧米軍の主力が欧州から撤退したり、また、次図の通り、NATOにおいて、欧州(カナダを含む)各国を合わせた国防費(36%)と比較し、約2倍近くを国防費(64%)に充当し世界最強の軍事力を維持する米国が抜ければ、前掲のイスメイ卿が示したNATOの主要な3つの役割がすべて形骸化することになる。

 同機構が存続の危機に瀕するのは想像に難くない。

 そして、世界の地政学的なあり方に激変をもたらし、多くの国が安全保障・防衛体制に根本から再考を迫られる事態へと発展しかねない。