「戦略的自立」の基本原則が大事

 かつてフランス大統領であったシャルル・ド・ゴール氏が、いま再評価されている。

 ド・ゴール大統領は、「現代を象徴するものは不確実性である。従来の慣習、将来の展望、あるいは既成の教義に対する滔々たる否定が、既成秩序をこれほどゆさぶったことはかってなかった」「小国は拡大を、大国は支配を、そして、老いたる国は延命を願うものである限り、どうして、今日の均衡が確実なものであるといえるのか。この種の変動が現実に存続しているというのに、何をもって国境や国権の安定を保持していこうとするのか」(以上、「剣の刃」、文春学藝ライブラリー)と述べている。

 ド・ゴール大統領は、1960年代に戦略的自立政策を打ち出した。

 いわゆるド・ゴール主義であり、フランスが主権国家として独自の核抑止力を持つという概念を生み出し、独自の核開発を推進した。

 同大統領は、「もちろん、米国人はロシア人よりも我々の友人だ。しかし、米国にも国益があり、いつかそれが我々の国益と衝突する日が来るだろう」と喝破していた。

 この警告は、現在の米国と欧州の混乱・衝突を見事に言い当てており、あまりにも予見的である。この伝統が、マクロン大統領にも一脈相通じていると見て間違いなかろう。

 我が国は、拡大抑止の提供を含む日米同盟を安全保障政策の基軸に据えている。

 我が国が、隣接する中国やロシアといった核軍事大国、さらに核ミサイル開発に猛進する北朝鮮の脅威に曝されている以上、世界大国である米国との同盟関係に大きな役割を期待せざるを得ない現状があるのはやむを得ない。

 しかし、複雑怪奇で不確実性が支配する国際安全保障環境の下で、真に主権と独立を維持する覚悟があるならば、根底に「戦略的自立」の基本原則に沿った国家像を描きながら、長期的視点に立った戦略・政策を推進する努力を怠ってはならない。

 それが、いま欧米が我が国に示唆する貴重な教訓ではなかろうか。