米国抜きでNATOはどのように変容できるか

 かねて、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、欧州独自の防衛軍、すなわち「戦略的自立」の必要性を訴えてきた。

 英国のキア・スターマー首相は、ウクライナ戦争の停戦後、ウクライナへの平和維持部隊の派遣などを含めた有志国連合の形成など、欧州のイニシアティブについて話し合うため、主要指導者たちによる緊急会議をロンドンで開催した。

 会議には、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領のほか、マクロン仏大統領、オラフ・ショルツ独首相、ジョルジャメローニ伊首相、欧州連合(EU)のウルズラ・フォンデアライエン欧州委員長らが参加した。

 ドイツの次期首相候補フリードリヒ・メルツ氏も国内メディアとのインタビューで、「トランプ氏がNATOの集団的防衛義務を無条件では守らない可能性に備えなければならない。欧州が最大限の努力をし、少なくとも欧州大陸を自分たちだけで守れるようにすることが極めて重要だ」(下線は筆者)と述べている。

 このように、欧州首脳は、米国抜きのNATOのあり方を模索しているが、その確たる将来像は描けておらず、未知の領域にとどまっている。

 そうした中、NATOの元欧州連合軍最高司令官であったジェームズ・G・スタブリディス氏(現タフツ大学フレッチャー法律外交大学院名誉学部長)は、ブルームバーグ(2025.3.6付)のコラムで、「米国がNATOを離脱するとしたら、それはとんでもない間違いだ」と指摘した上で、「NATOは米国抜きでどのような同盟になるのだろうか?」と自問自答している。

 以下は、氏が分析・見積った予測の概要である。

 米国撤退後のNATOは、おそらくは、現在のNATOを基盤としつつ、米国を除いた「欧州条約機構」(ETO:Europe Treaty Organization、仮称)が誕生するだろう。

 カナダは、北極圏における安全保障パートナーとして欧州を必要としており、ETOへの参加を選ぶかもしれない。

 あるいは欧州連合(EU)の支援の下、非加盟国である英国も含めた新たな安全保障体制の構築もあり得る。

 もし、米国が離脱すると決定した場合、欧州が3つの行動を取ると予測する。

 まず、第1に、英国とフランスはすでに核保有国であり、欧州は防衛費の増額を継続し、特に核戦力の増強を図るだろう。

 そして、宇宙軍を強化し、インテリジェンス、サイバー攻撃、宇宙活動への支出を増やだろう。

 スウェーデンやフィンランドを含む欧州の複数の国では、現在すでに、何らかの兵役が義務付けられており、ロシアの脅威を考慮すると、より広範な徴兵制を検討することもあり得る。

 第2に、欧州の外交・防衛政策は、米国と急速に乖離していくことになるだろう。

 米国と足並みをそろえて中国に対峙するよりも、欧州はロシアと米国が連携を深める場合への備えとして、中国との経済協力、さらには軍事協力さえ模索する可能性がある。

 おそらくは、中国の「一帯一路」構想に参加する欧州の国が増えることになるだろう。

 米国と共にイランの核開発を理由に同国に圧力をかけることにも消極的になり、欧州はイランでの経済的利益を追求するようになるかもしれない。

 最後に、欧州はウクライナを強く支援するだろう。

 農業国で鉱物資源の豊富なウクライナがプーチン大統領に降伏するようなことがあれば、欧州にとっての悲劇になるからだ。

 そして、前述のイスメイ卿の言葉に代えた新しい表現は「米国が去り、ロシアが入り込もうとしている中、欧州は抑え込まれないだろう」と結んでいる。

 以上は、あくまで仮定の上に立った一予測に過ぎないが、欧州・NATOの安全保障情勢に精通した元欧州連合軍最高司令官として、欧州の将来に希望的・肯定的な視点をもって述べられており、様々な異論はあったとしても、一考を要する問い掛けではなかろうか。