
米国のドナルド・トランプ大統領が行った就任演説(1月20日)と施政方針演説(3月5日)、またウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領との会談(2月28日)、さらにSNSその他で発信する言説を聞いていると、大国意識が見え見えだ。
あまりにも大上段からの物言いとしか思えない言説が多い。
大統領就任前には、ウクライナ戦争やイスラエル・ハマスの戦争を就任後すぐにも終わらせるかのように豪語していた。
イスラエルとハマスの戦争こそ就任前日に停戦したが、ロシアとウクライナ戦争の停戦は見通しが立っておらず当分続きそうである。
戦争終結の仲介だけでなく、メキシコ湾をアメリカ湾に改名したり、グリーンランドを購入する、パナマ運河を奪還するなど、国際的に承認されてきた名称や国家主権などの今日世界の基本的な価値観を無視する物言いも屡々である。
ウクライナの和平交渉やガザ所有構想のように当該国の歴史や伝統、開戦経緯や国際情勢を鑑みない強権的かつ一方的な発言などからは、一層の混乱や抗争の種となりかねない。
日本(政府)は関税にのみ関心を抱いている感があるが、日本海の呼称だけでなく、北方四島をはじめとする領土問題や国家主権というより根本的な問題が控えていることを等閑視していないだろうか。
領域拡張につながる危険性
駆け引きの一環としての発信(一種の外交術)と見ることもできるが、メキシコ湾をすでにアメリカ湾としているし、北米最高峰のデナリはマッキンリーに改名した。
しかし、米国のAP通信社は「すべての読者が地名を簡単に認識できるようにする必要がある」と主張し、またホワイトハウス記者会は「報道機関がニュースをどのように報じるかについて(米国大統領が)決定する権限はない」などとして反発しているとされる。
メキシコ湾の呼称はアメリカ独立宣言(1776年)より前の1768年版ブリタニカ百科事典(初版)に明記されているという。
米国が国家として出現する前からメキシコ湾と呼ばれてきた。
メキシコはティオティワカン、マヤ、アステカ文明などを育んできた国で、明治時代においてさえ外貨はメキシコ(墨)ドルであった。
インド洋、東・南シナ海、日本海、バルト海なども、当時の勢力の反映には違いない。
しかしその後、公海や国際水道などの意識が発達するにつれ、呼称を冠した国家とは無関係に一般名称として国際的に認めてきたわけである。
トランプ大統領が出現する以前から米国にはアメリカ湾と呼ぶべきだとの主張があったが、トランプ氏が大統領令に署名したことから連邦政府は公式に「アメリカ湾」と改称している。
メキシコのクラウディア・シェインバウム大統領は「メキシコ湾という名称は国際的に認められている」と反論した。
トランプ氏の主張がまかり通ることになれば、力があれば何をやってもいいという、言うなれば帝国主義の復活であり、地名や湾の改名だけでなく領域所有問題(すなわち主権行為)に発展し、地球上のあちこちで混乱をもたらすのではないかという危惧を抱かせる。
公海・公湾(この用語はほとんど使われないが)であったものが、国家威信のために改名するとなれば、公の海であり湾であるにもかかわらず、いつの時点からか名称由来の国が領有権を主張しないとも限らない。
いやすでに南シナ海を中国が勝手な線引きで領海の主張に結びつけている。
東シナ海においても尖閣諸島を自国領と主張し、日中中間線では日中間の約束を反故にして地下資源の掘削を進めている。
一連の行動からは南シナ海同様に将来「○段線」として自国領に囲み込む伏線ではないか。