ウクライナを訪問したビクトリア・ヌーランド国務次官(1月31日、写真:ロイター/アフロ)

 ビクトリア・ヌーランド米国務次官が今年3月退任すると発表された。

 ヌーランド氏の退任は、彼女に代表される「ネオコン(新保守主義)」グループと、その背後にいるグローバリスト勢力の凋落を物語っている。

ヌーランドと戦争研究所の好戦主義

 ヌーランドの義妹キンバリー・ケーガン氏は、米軍需産業大手とともに出資して2007年シンクタンク「戦争研究所(ISW)」を設立した。キンバリー・ケーガンは現在も、ISWの所長を務めている。

 ISWは、イラク、シリア、アフガンについて、軍事介入を主張する強硬論を展開してきたことで知られている。

 ISWは「一般的に、国際紛争への米軍の関与を増やすことを提唱している。彼らの政治的立場は、戦車や兵器システムの製造などのISWの資金提供者の事業上の利益と一致する傾向がある」と評価されている(「戦争研究所」『ウィキペディア』2024年4月2日閲覧)。

 キンバリー・ケーガン氏は、イラクでの「増派(サージ)」戦略を支持し、2007年と2008年のイラクに対する米軍の「増派」に関するドキュメンタリー映画を共同制作している (『ISW』2009年10月28日)。 

 ISWは、シリア紛争に対するオバマ政権とトランプ政権の両方の政策を批判し、よりタカ派のアプローチを提唱している。

 2013年に、キンバリー・ケーガン氏は、「米国に友好的な国家が出現する」ことを期待して、「穏健な」反政府勢力に武器と装備を供給するよう求めた(『フーバー研究所』2022年3月22日閲覧)。

 2017年、ISWのアナリストのクリストファー・コザック氏は、シリアのシャイラト空軍基地への空爆について、ドナルド・トランプ大統領が1時間の空爆で終了したことを批判し、「抑止力は永続的な状態であって1時間で終わる一連の攻撃ではない」と述べ、さらなる攻撃を提唱している(『ISW』2022年3月29日閲覧)。

 ISWは、2011年11月に、中東安全保障プロジェクトを立ち上げた。その目的は以下の課題を追求することにあった。

①ペルシア湾とさらに広域のアラブ世界における(米国の)国家安全保障に対する挑戦に関する研究、

②米国と湾岸諸国がイランの増大する影響力を監視し、イランの核保有への野心を封ずることを可能にする方策を見出すこと、

③近年の激動による中東における力の均衡の変化を説明し、その台頭に対する米国とアラブ諸国の対応について評価すること。

 同プロジェクトは現在のところ、シリアとイランに焦点を当てるとともに、リビアの革命間の一連の報告を作成している(Institute for the Study of War - Wikipedia as of April 2nd, 2024)。

 このように、キンバリー・ケーガン氏を中心とするISWの主張は、米国の軍事介入を積極的に推進し、戦争拡大を是認する強硬論で終始してきた。

 中東においては、反米的なイランの台頭、特にイランの核保有を警戒している。

 ISWの戦況分析は、ウクライナ戦争でもしばしばメディアで引用されているが、ウクライナ寄りの姿勢で知られている。

 西側の大手メディアにみられるあからさまな隠蔽を伴った決定における、バイデン政権の政策の失敗、特にウクライナと中東での不可避の失敗の明確な兆候が出てきている。

 その誤った決定の第1として、ロシアを孤立させ制裁により屈服させ、できればモスクワの政権を転覆させようとしたことが挙げられる。

 第2に、中東における米国の軍事的覇権を再保証するために、イスラエルに対する揺るぎない支援を拡大して、サウジアラビアとの関係を頂点とするアブラハム合意によりパレスチナ問題を静かに隠蔽しようとしたことがある。

 ロシアがウクライナに侵攻してから2年が経過したが、ウクライナ政権は資金と武器が枯渇し、戦争の成り行きに影響を与える能力を失っているとみられる。

 ロシアに対する制裁も完全に逆効果になり、欧州の産業競争力に多大の問題をもたらしている。

 ロシア政府は西側諸国から孤立させられただけで、その政治的あるいは防衛上の残りの世界各国との関係は影響を受けていない。逆に、それらの関係は経済関係も含め強化されている。

 中東でも、米国のイスラエルのガザ地区での戦争に対する多額の支援にもかかわらず、ネタニヤフ政権は、軍事攻撃を抑制し飢餓状態にあるパレスチナ人に対する人道支援を許可するようにとのバイデン政権の懇願を、そっけなく無視している。

 休戦または人道的な戦闘停止についても、イスラエル人の人質とパレスチナ人の囚人の釈放をめぐる取引と同様に、依然として見通しが立っていない。

 イスラエルとサウジアラビアの交渉についても、これまでに比べ困難になっている(Victoria Nuland: Farewell to the Spearhead of US Foreign Policy Disasters | Stop the War (stopwar.org.uk), as of April 2nd, 2024)。

 このようにヌーランド氏とキンバリー・ケーガンISW所長に代表されるネオコンの対外軍事介入主義は、ウクライナでも中東でも破綻しており、米国内でも批判が高まっている。