米韓首脳会談の後、ホワイトハウスで晩餐会が催された(4月26日、写真:AP/アフロ)

 今年4月26日、ジョー・バイデン米大統領と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、ワシントンD.C.で会談し、北朝鮮に対する両国間の拡大抑止強化で合意したと報じられている。

 その背景には、北朝鮮の核ミサイル脅威の高まりがあることは明らかだ。会談の成果に韓国世論は納得するのだろうか。

 またその影響は朝鮮半島のみにとどまるものではなく、我が国にも深刻な問題を突き付けている。

高まる北朝鮮の各種核ミサイル脅威

 北朝鮮は2017年頃から、ミサイルのエンジン増産に力を入れてきた。

 朝鮮中央通信は同年8月23日、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が国防科学院化学材料研究所を視察し、研究所を拡張して、発射準備時間を短縮できる弾道ミサイルの固体燃料エンジンや弾頭を次々と製造するよう指示したと伝えている。

(『産経ニュース』2017年7月23日)

 その成果が、昨年から現れている。

 昨年(2022)10月10日、北朝鮮の朝鮮中央通信は、9月下旬から7回実施した弾道ミサイル発射について、戦術核の運用部隊による訓練だったと報じた。金正恩総書記が指揮したとしている。

 報道によると9月下旬以降のミサイル連射は具体的な戦術目標を定めて実施した。

 9月25日は北朝鮮北西部の「貯水池水中発射場」から撃ったとし、山に囲まれた水面からミサイルが飛び出す写真を公開した。小型の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)とみられる。

 また他の発射についても目的などを説明した。

 9月28日は戦術核による韓国の飛行場を無力化させる訓練とした。10月9日未明の発射は「敵の主要港への打撃を模擬した超大型放射砲の射撃訓練」と位置づけた。

 日本上空を通過した10月4日のミサイルは「より強力で明白な警告を敵に送る」ためだったと記した。

「新型の地対地中長距離弾道ミサイル」を使ったとし、4500キロ離れた太平洋上の目標水域を打撃したと主張した。

 また、相次ぐ発射は米国の原子力空母「ロナルド・レーガン」の日本海への展開や日米韓の共同訓練に対する「軍事的警告」としている。

(『日本経済新聞』2022年10月10日)

 今年(2023)1月1日、朝鮮中央通信が、昨年12月26〜31日に開かれた党中央委員会拡大総会での金正恩朝鮮労働党総書記の発言として以下の内容を報じている。

 金正恩総書記は、核弾頭の保有量を「幾何級数的に増やす」と述べ、戦術核兵器を大幅に増産する方針を示した。

 2023年の核武力・国防戦略の中心に据えるという。戦術核は韓国への攻撃を念頭に置くもので、韓国の尹錫悦政権との対決姿勢を鮮明にした。 

 金正恩氏は、自国への軍事的圧迫を強める日米韓に対抗できる「圧倒的な軍事力強化」が求められていると主張。迅速な反撃能力を確保する新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)開発も掲げた。

 固体燃料エンジン搭載型のICBMを指すとみられる。また、近く北朝鮮初の軍事偵察衛星の打ち上げを行うと予告した。

 金正恩氏は国際情勢の構図が「新冷戦」に転換したと言及。中国やロシアと連携し、日米韓への強硬姿勢を続けると示唆した形だ。

(『東京新聞』2013年1月2日)

 昨年12月31日には平壌で、韓国攻撃用の口径600ミリの超大型放射砲30基の「贈呈式」が行われ、金正恩氏が「南朝鮮(韓国)全域を射程圏に収め、戦術核搭載もできる」と述べた。

(『共同通信』2023年1月1日)

 今年3月24日、金正恩氏が核兵器を搭載可能だと主張する、新たな水中攻撃ドローン(無人艇)の存在を明らかにした。

「水中爆発で超強力な放射能の津波を起こして敵の艦船集団と主要作戦港を破壊、掃滅する」ものだとした。

 3月28日に北朝鮮は、短距離ミサイルに搭載可能な小型核弾頭とみられる物体を国営メディアを通じて初めて公開している。

 北朝鮮は長らく、韓国国内の標的を攻撃できる戦術核兵器を保有していると主張してきたが、その証拠を示したのはこの時が初めてだ。

(ジーン・マッケンジー『BBC NEWS JAPAN』2023年3月29日)

 北朝鮮国営の朝鮮中央通信は今年3月28日、金正恩総書記が「核兵器化事業」を前日の27日に指導したと報じた。

 金正恩氏は「兵器級核物質生産を展望をもって拡大し、引き続き威力のある核兵器の生産に拍車をかけるべきだ」と述べ、核兵器の増産を加速させるよう指示したとしている。

 同通信は、金正恩氏が核弾頭とみられる「ファサン31」と一緒に写る写真も公開した。短距離弾道ミサイルに搭載される「戦術核弾頭」の可能性がある。

(『毎日新聞』2023年4月28日)

 北朝鮮は今年4月18日に、初の固体燃料式のICBM「火星18号」の発射実験を行ったと発表した。

 固体燃料のミサイルは即応性が高く移動化も容易で、軍事用として実用性が高い。

 これで北朝鮮はまたより実戦的な核投射手段の保有に一歩近づいた。

 戦術核兵器についても増産の指示を出し、様々な状況下での発射訓練を行い、実物とする核弾頭の写真を公表するなど、戦術核兵器を米韓軍や米空母に対して実戦下で使用するための訓練を重ねていることを強調している。

 浜田靖一防衛大臣も昨年10月13日の衆議院連合審査会の席上、次のように述べている。

「北朝鮮の核兵器計画は相当進んでいる。少なくとも中距離弾道ミサイル『ノドン』『スカッドER』といった、我が国を射程に収める弾道ミサイルに核兵器を搭載して攻撃するために必要な核兵器の小型化、弾頭化などをすでに実現しているものと見られる」

「弾道ミサイルの発射兆候の早期把握や迎撃はより困難になっている」

(『NHK NEWS WEB』2022年10月13日)