年次教書演説をするプーチン大統領(2月21日、写真:ロイター/アフロ)

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は2023年3月15日、バフムートなど東部ドンバスの諸都市の運命はウクライナの運命を左右すると訴えた。

 3月22日には自らバフムートを視察し将兵を労うなど、戦意の高揚に努めている。

 2月20日には米国のジョー・バイデン米大統領がキーウを秘密裏に電撃訪問した。

 訪問の目的は、その後のゼレンスキー・習近平会談、中露首脳会談の動きから、停戦交渉の道筋を開くことにあったとみられる。

 これらの動向から、ウクライナ戦争はこれまで報じられてきたようにウクライナ軍が優勢とは言えず、かなりの劣勢に追い込まれているのではないかと思われる。

 戦場の実相は現在どのようになっているのであろうか。

要塞都市バフムートの防御態勢

 以下の分析は、衛星画像分析とウクライナ軍、ロシア軍双方の国防省の日々の戦況発表、他の分析機関の分析結果(例えば、DPA War、Weeb Unionなど)、米国防省とパイプのあるダクラス・マグレガー米陸軍退役大佐、中立国の報道、独立系分析機関の報道などに基づいたものである。

 互いの分析結果、特に戦況の進展度、両軍の損耗などの結果がほぼ一致しており、軍事合理性にも合致している。

 その昨年開戦来の戦争の推移予想もおおむね的確になされている。総合的に判断して、信頼性の高い分析結果と言えよう。

 ゼレンスキー大統領がウクライナの運命を決める戦闘が進展している町として挙げ、その直後に直接訪問し前線部隊を激励したのが、東部ドンバスの要衝バフムートである。

 バフムートは、かつては人口7万人を擁し、東部ドンバスの交通の要衝であり、軍需物資の集積拠点でもあった。

 ウクライナ軍は2014年以降、NATO(北大西洋条約機構)の支援も受けながら、バフムート市街地全域に堅固な要塞を構築してきた。

 建物はそれ自体が堅固な陣地となり、旧ソ連時代から構築されていた地下シェルターには大量の弾薬、燃料、食糧などが備蓄され、長期戦が可能な態勢がとられていた。

 陣地はコンクリートで強化された塹壕や地下道で結ばれ、要所には戦車・対戦車ミサイル・対空ミサイルなどの掩体が築かれ、防御陣地の周りには何重もの地雷原、対戦車壕、対戦車障害などが構築されていた。

 ロシア軍は2022年5月から、このように要塞化されたバフムート市街地に対し攻撃を続けていたが、2023年1月頃までは、あまり戦線の前進は見られず、一見すると膠着状態にあるかのようにみえた。

 しかし実態は、2022年10月頃から熾烈な火力消耗戦をロシア軍はウクライナ軍に強い、その結果、ウクライナ軍の兵員と装備に大量の損耗が出ていたのである。

 火力消耗戦の総指揮をとっていたのが、航空宇宙軍総司令官から南部軍集団司令官を経て、2022年10月8日にロシア軍の総司令官に抜擢されたセルゲイ・スロヴィキン上級大将である。

 彼は、ドニエプル川北岸のヘルソン州からの撤退をセルゲイ・ショイグ国防大臣に進言し、承認されたとされている。