前記のゲラシモフ演説でも、「先端的な科学技術を軍事面に全面的に応用すること」の重要性を強調し、特に核抑止力については、「世界の最先端を走っているという事実に疑いをはさむ余地はない」との自信を示している。
その具体例として、新兵器「キンジャール」は高い有効性を示し、「ポセイドン」、「ブレヴェストニク」の試験は順調に進み、「海洋配備型極超音速ミサイル「ツィルコン」の開発計画も進んでいると述べている。
これらの兵器のうち「キンジャール」は、ウクライナ戦争で使用されている。
「キンジャール」は当初1日6発程度の使用にとどまっていたものが、その有効性が実証され3倍に生産能力が引き上げられたとみられている。
「キンジャール」は高価で複雑な兵器のため、多数を生産・使用はできないが、現用のNATOの防空システムでは撃墜手段はなく、正確に目標に命中し1発でも多大の破壊効果を挙げている。
そのため、ロシア軍は他の攻撃手段では破壊できない、最も重要な目標に「キンジャール」を使用している模様である。
また上記演説で、ゲラシモフ氏は「地上配備型の短・中距離極超音速ミサイル複合体の研究・設計作業も実施が決定された」と述べており、今後はイスカンデルなどに搭載した地上配備型極超音速兵器も登場し、その攻撃威力を増すことになるかもしれない。
ロシア軍冬季攻勢と崩壊寸前ウクライナ軍
2023年1月、ロシア軍の最高司令部改編に伴い、スロヴィキン総司令官からワレリー・ゲラシモフ総司令官に交替した。
路面凍結を待ち、これまであまり動かなかった両軍の接触線が動き始めた。ロシア軍が犠牲覚悟でバフムートその他の要塞都市に対し、全面攻勢を開始した。
1月末から、路面の凍結を待ち、ロシア軍のバフムートに対する占領地域拡大を目標とする本格的な地上部隊の攻勢が開始され、民間軍事会社のワグネルを主体とする歩兵部隊が熾烈な市街戦を戦い、徐々にウクライナ軍の防御陣地を蚕食し始めた。
特に第一線部隊として活躍しているのは、民間軍事会社のワグネルの部隊である。
彼らは近接格闘戦を余儀なくされ犠牲を伴う市街戦や森林内での戦闘に長けており、市街地の東部から徐々に陣地の制圧を進めた。
それと同時にロシア軍正規軍と連携し、バフムート市街地の南北両翼から同市を包囲し、市街地に通じる道路網を遮断している。3月20日過ぎには1本を除き主要な道路はすべてロシア軍の制圧下に入った。