それに対し、NATO側では米軍も年間百両以下、ドイツなどもレオパルト戦車は年間22両程度しか生産していない。増産し乗員を訓練するには、やはり数年かかるとみられている。
NATO側では、当面保有している戦車をウクライナに送ることで合意している。
ドイツの「レオパルト2」が18両ウクライナに届いたと報じられ、英国も「チャレンジャー2」を14両、ポーランドも74両のレオパルトを供与することをウクライナに約束した。
しかし、その数はロシア軍に比べ少数で、年内に全部で約150両程度にとどまるとみられている。
他方のロシア軍は国境から百数十キロで前線に届き、ロシア領内の安全圏内に大規模な生産工場、備蓄基地などが展開され、そこから武器・弾薬を安全に大量輸送できる。
ただし、今年に入りウラル地区に備蓄されていた大量の弾薬が底を尽き、極東方面からも追送が必要になったが、長距離輸送間にその約半数が錆びついているとの未確認の情報もあり、ロシア側の備蓄も欧露正面では枯渇しつつあるのかもしれない。
しかし、ロシアは極東などの備蓄の転用、増産能力の向上、他国からの輸入などの手段はとれるであろう。
多種多様な武器・弾薬からなり、規格が異なる物を同時使用せざるを得ないウクライナ軍の兵站面・訓練面の負担に比べると、兵器体系が一本化されているロシア軍の方がはるかに効率的に兵站面の支援を行うことができる。
ウクライナ軍は開戦時の航空戦力や航空基地に対するミサイル攻撃などにより、航空戦力の主力は破壊され、滑走路も整備施設・弾薬庫・燃料庫も大半が使用できない。
残存した戦闘機もポーランド国内に退避し、発進している状況である。
そのため、ウクライナ空域での航空優勢は確保できていない。ロシア軍の濃密な対空火力網に阻まれ、東部ドンバスでの作戦時に戦車部隊の上空を掩護するのは困難とみられる。
2023年3月8日付『ニューズウィーク』誌によれば、2023年2月の欧州訪問の際、ゼレンスキー大統領は戦闘機の供与を要求しており、ウクライナ軍空軍のパイロットが「通常の軍事対話の一環」として米国に来ているとも報じられている。
しかし、パイロットの訓練には1年半程度はかかるとみられており、戦闘機の供与に米国は依然として慎重である。
少数の戦車で航空掩護もなく圧倒的に優勢な戦車戦力と掩護態勢を持つロシア軍に攻勢をかけても、成功の可能性はなく、犠牲を出すだけで終わるであろう。
質の点でも、ロシアを侮ることはできない。