原油価格は急落が間近か(写真:Alperen Yazganoglu/Shutterstock.com)
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(藤 和彦:経済産業研究所コンサルティング・フェロー)

 米WTI原油先物価格(原油価格)は今週に入り1バレル=58ドルから60ドルの間で推移している。先週末のウクライナ軍の攻撃を受けて原油価格は60ドル近くまで上昇したが、その後、下落し、ウクライナ和平協議の難航を材料に再び上昇に転じた。

 まず原油市場を巡る動きを確認しておきたい。

ウクライナが水上ドローンでロシア「影の船団」攻撃

 欧米メディアによるとウクライナは11月末、軍の無人艇(水上ドローン)が黒海でロシアが制裁逃れに使っている「影の船団」のタンカー2隻を攻撃した。2隻はいずれも重大な損傷を受け、事実上航行不能になったという。

 ウクライナ軍による無人艇攻撃はこれにとどまらない。 

 カザフスタン産原油を輸出するカスピ海パイプラインコンソーシアム(CPC)は29日「ウクライナによる攻撃で係船施設が激しく損傷した」と公表した。

 CPCは世界の原油供給の1%超、カザフスタン産原油の輸出の約80%を扱っている。

 ウクライナの攻撃に対してカザフスタン政府は怒りを露わにしている。29日「純粋な民間インフラへの攻撃は許しがたい。CPC施設への武力行使は世界のエネルギー安全保障に直接的なリスクをもたらす」と抗議した。

 幸いにもCPCは12月1日から操業を再開したが、黒海周辺は「波高し」だ。

 ロシアもウクライナの度重なる攻撃に対する報復を示唆している。プーチン大統領は12月3日「ウクライナがタンカー攻撃を続けるなら、ウクライナ支援国のタンカー攻撃を検討する可能性がある」と警告を発した。

 筆者は「ウクライナの一連の攻撃で原油価格は60ドルを超える」と考えたが、「60ドルの壁」を突破することはなかった。

 トランプ大統領が12月2日に「近く地上での攻撃を始めるつもりだ」と述べたように、ベネズエラの地政学リスクも顕在化しつつある。

 だが、市場では「ベネズエラからの原油供給量は少なく、生産の一部を米石油大手が管理しているため、影響は限定的だ」との見方が出ている。

 市場が地政学リスクに鈍感になっている感があるが、背景にあるのは「世界の原油市場が過剰である」との認識だ。