サウジの財政赤字拡大は想定以上に?

 OPECプラスの動向を追っている情報筋によれば、来年1~9月の加盟国の生産能力を元に2027年の生産基準値が決まるという。

 サウジアラビアのアブドラアイズ・エネルギー相は12月1日「新たな仕組みは今後の生産を巡る取り決めの信頼性を高め、市場安定化に寄与する」と自賛している。OPECプラス内の調整に苦労してきたサウジアラビアは「自身の責任が軽くなる」と考えているのかもしれないが、現在の協調体制に綻びが生ずるリスクがあるのではないだろうか。

 2027年の生産基準値を高めに設定してもらうため、加盟国が競って来年から生産量を増加させる恐れがあるからだ。そうなれば、11月30日の方針に反してOPECプラスの生産量が来年当初から急増することになる。原油価格が50ドル割れし、産油国の財政が火の車となる可能性は十分にあるだろう。

 サウジアラビア政府は12月2日、来年度の国家予算を承認した。財政赤字額は1650億リヤル(約6兆8000億円)と国内総生産(GDP)に対する比率は約3.3%となる見通しだが、実際の赤字幅は想定内に収まるとは思えない。

 今年度の財政赤字額は原油価格(平均)が60ドル台と低下したため、当初の1010億リヤルから2倍以上(2450億リヤル、GDP比は5.3%)に跳ね上がっている。

 来年の原油価格は今年の水準を下回り、サウジアラビアの原油収入が減少する可能性が高いため、サウジアラビアの財政赤字は今年以上に拡大するのが確実だ。脱石油経済化の途上にあるサウジアラビアにとって大きな痛手だ。

 原油安は日本にとって望ましいが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」。サウジアラビアをはじめとする中東産油国の今後の動向について、最大限の関心を持って注視すべきだ。 

藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。