第二次大戦後、日本では生活物資の不足とインフレが庶民を直撃したことはよく知られている(写真:Everett Collection/アフロ)
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 2026年丙午(ひのえうま)の幕開けとともに、海外の国際情勢だけでなく、国内の政治情勢についても、「先が読みづらい」という言葉で語られる場面が増えている。経済に目を向けても、物価、金利、為替、株価といった企業活動や家計行動を左右する指標が揺れている。

 こうした状況は、単に景気の先行きが見通しにくいという問題にとどまらない。従来の前提や経験則が通用しにくくなり、これまで当然視されてきた経済の仕組みが、静かに揺らぎ始めている兆しとも受け取れる。以下では、経済史を振り返りながら、私たちが依拠してきた制度の前提が、どのように形づくられ、どのような局面で問い直されてきたのかを考えてみたい。

(平山 賢一:麗澤大学経済学部教授/東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)

 歴史を振り返ると、経済が大きく揺れ動いた局面では、制度の前提そのものが再検討されてきた。私たちが当然のように受け止めている経済社会も、必然的に成立したものではなく、過去の選択と試行錯誤の積み重ねの上に成り立っているに過ぎない。

 ある時代には、「市場に任せたほうが経済は円滑に回る」という考え方が支持されてきた。一方で、不況や戦争、急激な物価上昇といった危機に直面すると、「国家が前に出て秩序を保つべきだ」という発想が強まってきた。

 いずれも、その時々の問題に対応するために選び取られた制度であり、特定の思想が常に正しかったわけではなかった。19世紀末以降の経済社会は、市場を重視する市場主義の時代と、国家を重視する国家主義の時代とが、交互に現れてきた歴史の上に築かれている。

市場主義が機能する条件とは

 市場主義とは、企業や個人が自由に判断し、競争を通じて経済活動を行う仕組みである。

 金融市場では、株価や金利、為替レートといった「価格」が重要な役割を果たす。価格は、将来の見通しやリスクの大きさなど、多様な情報を一つの数字に集約したものだと考えることができる。

 将来性が高いと見込まれる分野には資金が集まり、そうでない分野からは資金が離れていく。このようにして資金が移動することで、生産性の高い分野が拡大し、経済全体の効率性が高まるとされてきた。新たな産業や技術が生まれやすくなり、経済の成長速度が押し上げられる局面も少なくなかった。

 こうした仕組みは、将来に対する見通しが比較的安定している局面では、有効に機能してきたとも言える。