2026年、植田和男・日銀総裁は何回利上げできるか。写真は12月25日、経団連会館での講演(写真:共同通信社)
目次

まもなく年が変わる。当面の世界経済を見渡すと、国家間の対立や経済のブロック化、国家主義的な政策運営が続くとの見方が支配的である。こうした分断の構図には小さな綻びが生じ始めているとの指摘もあるが、自由貿易と国際協調が回復する時代に直ちに戻るとは言い切れない。今回はそうした前提で金融市場の先行きを考えてみたい。

(平山 賢一:麗澤大学経済学部教授/東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト)

 これまで金融市場では、混乱が生じた際に各国政府や中央銀行が大規模な政策対応を行い、市場の動揺を抑え込む余地が存在していた。しかし現在は、「物価の不安定化」と「財政の悪化」という二つの制約が同時に重くのしかかり、政策対応の余裕は明らかに狭まっている。その結果、市場の変動率、すなわちボラティリティは高まりやすくなっており、比較的小さな出来事であっても、株価や金利、為替が大きく振れる場面が増える可能性がある。

 また、米ドルを基軸とする国際通貨システムについても、急激な転換が起きる段階ではないものの、その安定性に対する疑念が徐々に積み重なっていると見る向きがある。インフレ率が低く抑えられていた時代には問題化しにくかった負債の増大やレバレッジの拡張も、インフレ懸念が残る局面では、経済の脆弱性として表面化しやすくなると考えられる。

広がる格差拡大、債務免除なども否定できず

 まず金融市場に大きな影響を与え得る地政学的リスクから見ていこう。

 全面的な大戦というよりも、サイバー空間での象徴的な混乱や、大国間での小規模かつ限定的な実戦といった形で顕在化する可能性が高いと見られている。これらは一つひとつの規模こそ限定的であるが、断続的に生じることで、市場心理を冷やし続ける要因となり得る。

 さらに、多くの国で所得や資産の格差拡大が社会的な不安定要因となっている。このため、社会の安定を優先する観点から、主要国において債務免除やそれに準じた措置が検討・実施される可能性も否定できない。

 もしこうした債務者保護の措置が取られれば、財産権が保護されてきた時代とは真逆の動きとなり、これまでの資本主義社会の顛倒(てんとう)を意味するため、経済社会に大きなショックを与えるかもしれない。現在は、価格変動リスクだけでなく、これまで常識とされてきた仕組みが大きく変化するなどの構造的リスクの可能性が高まっており、市場の警戒モードは続くだろう。