米国株の上昇はITバブルの再来なのか

 特にAI関連の超巨大企業では積極的な資金調達が続いており、その姿は1990年代末の通信会社による負債積み上げと重なって見えてくる。現時点で直ちに調整局面に入ることはないかもしれないが、評価が余りにも先行した状態にあると捉える市場参加者が増えている。

 日本株については、平均配当利回りがおおむね2%である一方、10年国債利回りがこれを上回る水準に至っており、金利との比較で見た株式の割安感は明らかに後退している。

 企業利益を基にした益回りで見れば5.5%を上回っており、一定の上昇余地が残っているとの評価も可能であるが、リスクを取ることで得られる利回り格差が縮小している点は注意が必要だろう。

 為替については、日米金利差が縮小する方向にあるものの、日本円への信認が相対的に低下しているとの見方から、1米ドル=150円台という円安水準が当面維持される可能性が高いと考えられている。急激な円高に転じるには、金利差の縮小だけでなく、政策運営への信認回復が必要になるとの指摘もある。

 以上を総合すると、当面の金融市場は、現状の延長線上にある数値が意識される一方で、その前提が揺らぎやすい局面にあると言える。過度な悲観に陥る必要はないものの、これまでと同じ感覚で市場を捉えることが難しくなっているのも事実である。

 2026年の市場は、安定と不安定の境目にある尾根道を進みながら、次の均衡点を探っている段階にあると見るのが、無理のない理解であろう。

平山 賢一(ひらやま・けんいち) 麗澤大学経済学部教授/東京海上アセットマネジメント チーフストラテジスト
1966年生まれ。資産運用会社を経て、1997年東京海上火災保険(現:東京海上日動火災保険)に入社。2001年東京海上アセットマネジメントに転籍、チーフファンドマネジャー、執行役員運用本部長(最高投資責任者)を歴任。2025年からは経済史研究を軸足に現代の金融市場を分析。メディア出演のほか、レポート・著書などを多数執筆。主著に『戦前・戦時期の金融市場 1940年代化する国債・株式マーケット』(日本経済新聞出版)、『金利の歴史』(中央経済社)、『物価の歴史』(中央経済社)などがある。

著者の近著『金利の歴史』(中央経済社)