充実すべき日本の予備自衛官制度

 このように、予備役制度には、常備軍を平時から多数保持するよりも経済的であり、戦時には直ちに訓練された適格な要員を部隊に補充し軍を拡張できること、民間の様々の技能・経験・知識を持つ人材を活用できること、軍民の関係をより緊密にでき、国民の軍に対する理解と支援を強められることなどの利点が指摘されている。

 これらの利点は日本においても通ずるものであり、その利点が現状の実員3万3000人程度の予備自衛官制度では生かされていない。

 特に、民間の専門的な軍民両用分野の専門技術者の確保は、軍事上も極めて重要になっている。

 ウクライナ戦争でも、ドローンが数万機規模で常時運用され、その操縦手、得られた情報の分析要員、通信・電波戦、宇宙での戦い、サイバー戦など、民間に大半の人材や技術・知識が集中している分野が、戦いの帰趨を決定する主要素となっている。

 これらの戦力を生かすためには、平時からの軍民の連携・一体化が欠かせない。

 しかし、これらの分野の人材は民間でも貴重な人材であり、また民間でなければ育成も平時からの実務を通じた技量向上も行えない。

 また、平時の経済・技術開発においても、これら分野の人材の確保育成は重要性を増している。軍内で育成し技量を向上させるのは限界があり、また非効率でもある。

 その意味でも、これら特殊な専門的技能・知識を持つ人材を予備役として確保しておくことは、平時・戦時を通じて極めて重要になっている。

 そのような予備自衛官の募集枠として、元自衛官以外の社会人や学生を教育訓練終了後予備自衛官として任用する制度として「予備自衛官補」制度があり、公募のコースには「一般」と「技能」の2種類がある。

 中でも、「技能予備自衛官補」のコースは、語学や医療技術、整備などの分野に精通した人材を公募対象としている。

 しかし、『令和五年版防衛白書』図表Ⅳ-2-1-3「予備自衛官制度などの概要」に示されているように、予備自衛官補は教育訓練招集手当が1日8800円と極めて低く、このような処遇では民間との専門人材確保をめぐる競合の中で、必要な数の適格者を募集することには困難であろう。

 また、定員数は2022年3月31日現在で4621人と、極めて少数である。その中の一部が技能予備自衛官補に過ぎない。民間の潜在能力を十分に活用するには程遠い制度と言える。

 以上の予備自衛官制度の問題は、日本の防衛環境の悪化、戦争様相の劇的変化などにもかかわらず、放置されたままである。

 潜入した特殊部隊等による、後方の一般市民や民間目標に対する無差別攻撃や破壊工作は、ウクライナ戦争でもみられるように、飛躍的に脅威度を増している。

 目標のISR(情報・警戒監視・偵察)能力の飛躍的向上、ドローン・長射程精密誘導兵器の発達、それらを統制する指揮統制・通信・情報ネットワークのグローバルな展開などの要因が背景にある。

 それに対応するためには、これまで以上に民間の協力を得て最新の技能や情報を民間から得るとともに、後備予備、民兵組織、郷土予備隊などを編成し、平時から訓練を施し、自らそれぞれの郷土、地域や組織、家族を守れる態勢を早急に確立しなければならない。

 現実性のある施策の一つとして、退官する元自衛官全員に、予備自衛官として登録し、退官後も何年間か訓練することを原則的に義務付けるという制度がある。

 そのようにすれば、現役部隊との連携も容易で、長年培った自衛官としての経験・特技などを生かすこともでき、適格性のある一定数の予備自衛官を確保できるであろう。

 ただし、そのためには任用制度を見直し、予備自衛官の訓練日数を増やして訓練・技能の水準を向上させるとともに、他方で、月額4000円の予備自衛官手当、1日8100円の訓練招集手当、再就職先企業等に対する1日3万4000円の雇用企業協力確保給付金を増額するなど、大幅な予備自衛官の処遇改善と協力企業への支援強化が必要である。

 また、抜本的な予備役増強施策として、昭和30(1955)年前後に検討された、消防団や青年団を改組し、所要の装備を与え訓練を施しておくという「郷土防衛隊構想」は、再検討の価値がある。

「郷土防衛隊構想」等の抜本的な施策の検討なしでは、安保三文書が期待する「民間防衛」任務にも当たれる実力組織は、現状の陸上自衛官と予備自衛官の勢力では、とても対応できないことは明白である。

 郷土防衛隊があれば、大規模災害その他の危機でも、地域自らの力で迅速に対応する実力組織を持つことができる。

 国民は、自らの属する国家の独立と主権並びに地域・組織の安全を守る責務を負っている。

 時の国民以外に、国を守るために戦う人は出せない。自助努力をしない国に、同盟国も国際機関も兵員の派遣はしないのが、通例である。

 国防への協力義務は、憲法の条文に明記されていようといまいと、万国共通の国民自身の基本的責務である。

 とりわけ日本の周辺国は、世界平均をはるかに超える予備役制度の充実強化に励んでいる。

 予備役制度を含めた人的防衛力基盤の周辺国との格差を放置するならば、日本自らが力の空白となり、抑止が破綻して、日本に対する侵略を招くことにすらなりかねない。

 そのような厳しい現実から政治家も国民も目を背けていては、高まっている日本有事等の危機を乗り切ることはできない。