AMGによる速いメルセデス

もしメルセデスのディーラーに出かけて、「一番速いモデルが欲しい」といったら何がでてくるだろうか。それはきっとメルセデスAMG GTクーペだ。

AMG の歴史を少し振り返ってみると、もとは1967年にはじまったレーシングエンジンの設計、開発、テストを行う独立系のエンジニアリング会社だ。彼らが当時のSクラスをベースに手掛けたAMG 300 SEL 6.8がスパ24時間レースでクラス優勝を果たし、AMGの名は世界中で知られるようになる。

1971年、スパ・フランコルシャン24時間レースを走る Mercedes-Benz 300 SEL 6.8 AMG

1980 年代後半からは、ダイムラーベンツ(当時)と AMG は、公式のレースパートナーとして協力を開始。そうしてDTM(ドイツツーリングカー選手権)で190が大活躍する。2005 年には、ダイムラークライスラー(当時)がAMGの株式の 100% を取得。これにより、新たにメルセデスAMG GmbHが設立された。

現在、メルセデスAMGはシュトゥットガルト行政管区内にある町、アファルターバッハを拠点とし、1 人の人間が責任をもって1 つのエンジンを手作業で組み立てる「One Man, One Engine」という理念に従って、V8エンジンと直列4気筒エンジンを製造している。AMG製の証としてここで生まれたエンジンには、担当技術者が手書きで署名したバッジが付けられている。エンジンメーカーとしての歴史がいまも脈々と受け継がれている。

AMGと書かれたエンジンカバーの写真では左側のバンクのカバーにある白いプレートにHandcrafted by とエンジン担当者のサインがある

2009年、メルセデスAMGは大きな転機を迎えた。初めて自社で独自開発したモデル、SLS AMGを発表。

Mercedes-Benz SLS AMG

2014年にはSLS AMGを継ぐスーパースポーツカー、初代AMG GTをリリースした。初代AMG GTはF1のセーフティカーとしてたびたび中継画面に大映しになり、またこれをベースとしたレーシングマシンのAMG GT3は世界中のレースを席巻するなど、2023年まで生産されたロングセラーモデルとなった。

初代 AMG GT

よりワイド&ローに

そして、2024年、満を持して日本に上陸したのが2代目となる新型AMG GTだ。ロングノーズ+ショートデッキのプロポーションはキープコンセプト。

パナメリカーナグリルと呼ばれる縦桟の走るフロントグリルが先代より低い位置に配置されている。フロントグリルとフロントエプロンのエアインテーク内には空力性能と冷却性能を両立するエアパネルを採用。電子制御式のルーバーが走行状況に応じて瞬時に開閉。通常時は閉じることで空気抵抗を少なくし、一定の温度に達するとルーバーを開くことで効果的な冷却を行うという。

リアまわりでは、3 つの立体的なグラフィックが特徴的な LEDリアコンビネーションランプを左右に配置。それを水平に1本の線でつなぐことでワイド&ローを強調している。また電動格納式のリトラクタブルリアスポイラーを標準装備。80km/h以下では格納されており、それ以降は車速や重力加速度によって4段階で角度を自動的に調節。ダウンフォースを最大化するなど空力を最適化してくれる。それに加えて、アンダーボディに配置された約 2kgの超軽量カーボンファイバーパーツが約40mm下降し、ベンチュリ効果によって車体下部への空気の流れを加速させフロントリフトを抑制し走行安定性を高める「アクティブ・エアロダイナミクス・システム」も装備するなど、最新の空力性能を誇る。

キャラが変わった?

ボディシェルは、メルセデス AMGが独自に新開発したアーキテクチャーを採用する。実は2023年に登場した新型SLはメルセデスAMGによって開発されたモデルであり、基本はそのボディシェルを共用するものだ。

自動車のアイコンのひとつSLは2023年よりAMG SLとメルセデスAMGブランド下のクルマになった

スタイリングとしては先代を踏襲しているもののボディサイズは全長を180mm拡大、ホイールベースは70mm延伸。後輪駆動だったものが4マチック(4WD)となり、車両重量は1,940kgとかなり重くなった。加えて2+2の4シーター仕様もオプションで選択可能に。先代はキビキビと軽快に動くモデルだったが、これらの数字からも新型は少々キャラ変したことが伺い知れる。

インテリアはシートやダッシュボード、ドアパネルもすべてアクセントステッチ付きのナッパレザー仕上げでスポーツカーのそれというよりもラグジュアリィカーの雰囲気。

ダッシュボードは航空機に着想を得たもので左右対称のウイング形状にデザインされている。中央には縦型11.9インチセンターディスプレイを配置。それとつながるワイドなセンターコンソールにはエアインテークのNACAダクトを模したデザインが採用されている。