文:渡辺 慎太郎
4モーター4WDが実現した、これまでにない運動能力
2018年のフルモデルチェンジ以降、初めてとなる改良を受けたメルセデス・ベンツGクラスに試乗しました。最大のトピックは、Gクラスにも電気自動車(BEV)仕様があらたに追加されたことでしょう。
BEVは、モーターをフロントかリヤに1個置いた2WD、あるいはフロントとリヤに1個ずつ計2個を置く4WDの駆動形式が一般的ですが、GクラスのBEV仕様であるG580 with EQテクノロジーは各車輪にひとつずつ、計4個のモーターを配置した4WDであることが最大の特徴です。これにより、これまでの内燃機仕様では実現できなかった機能や動力性能や操縦性が可能となりました。
中でも代表的な機能が“Gターン”です。これはクルマを止めると、その場で車両を1度のアクションにつき最大2回転させるというもの。左右のステアリングパドルのどちらかを引くことで回転方向を決め、離せば任意のポジションでも回転を止めることができます。
回転方向によって、車両の外側と内側の前後輪を反対方向に駆動させることでこの機能を実現しています。また、別の機能の“Gステアリング”は、例えばUターンの際にそのままだと切り返しが必要な場面でも、イン側後輪を止め、イン側前輪をわずかに動かし、アウト側前後輪にしっかり駆動力を与えて最小回転半径を小さくします。Gターンはアスファルトやコンクリートの路面での使用が推奨されていないので、いつどこで使うのかちょっと微妙な機能ですが、Gステアリングのほうはより実用的と言えるかもしれません。
完全防水の強み
こうした“ギミック”のような機能ばかりが注目されてしまい、Gクラス本来のオフロード走破性がないがしろになっているのではないかという懸念が発表直後には少なくなかったそうです。ところが実際にG580は、部分的に内燃機仕様を上回るオフロード性能を備えていました。バッテリーは梯子形状のラダーフレームの隙間に収まっていますが、これを構造部材の一部と見なしてシャシー解析を行ない、結果的には内燃機仕様よりも剛性の高いフレームとなっています。バッテリーは完全防水化され、ボディの底目はCFRP製のアンダーカバーで広く覆われているため、渡河水深は内燃機仕様750mmに対して850mmと増えました。最低地上高も、機械式のデフがないので、内燃機仕様より高い250mmを確保しています。
G580は物理的に前後輪が繋がっていないので、前述のようにデフがないからオフロード走行では重宝する機械式のデフロックも備わっていません。しかし、4輪の駆動力を個別に制御できることから、仮想的にデフロックと同じ状態を作り出すことができます。試乗会ではオフロード走行も試してみましたが、内燃機仕様と勝るとも劣らない走破性を見せただけでなく、未舗装のグラベル路面では内燃機仕様よりもむしろ速く安定した走行が可能でした。電気信号によりモーターをコントロールするため、状況に応じて瞬時に4輪のトラクションが最適化できるからです。