文:渡辺 慎太郎

Gクラスもついに全車マイルドハイブリッド化

 現行のメルセデス・ベンツ Gクラスは2018年に登場。先代から大きく変わっていないように見えても流用したパーツはわずか数点で、W463の開発コードこそ継承しているものの事実上のフルモデルチェンジでした。そのGクラスが現行モデルになって初めてのマイナーチェンジを受け、北京ショーでワールドプレミアとなりました。

 例によって見た目での大きな変更はありませんが、パワートレインは刷新されています。実はGクラスは、メルセデスの中で唯一といっていい電動化ユニットを積まないモデルでした。新型ではついにガソリンもディーゼルもISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)仕様となりました。ディーゼルのG450dは3リッターの直列6気筒ターボを搭載し367ps/750Nmを発生、ガソリンのG500は同じく3リッターの直列6気筒ターボで449ps/560Nm、そしてAMGのG63は4リッターのV8ツインターボで585ps/850Nmと公表されています。

現行Gクラスが初めてのマイナーチェンジを受けた。エクステリアは空力改善を目的とした意匠変更や前後バンパーの形状が刷新されている。キーレスゴーもようやく装備された(写真はG500)

Hi, Mercedes! も搭載

 電動化以外でもGクラスが他のメルセデスより遅れを取っていた部分がありました。それがMBUXなどの機能で、今回ようやく音声認識機能付きの最新バージョンにアップデートされ“ハイ、メルセデス!”が利用できるようになっています。同時に液晶パネルもタッチ式となりました。

音声認識機能付きのMBUXやタッチ式液晶パネル、パッド式コントローラーなど、各種装備もようやく最新版にアップデートされた。デフロックのスイッチも刷新。写真はG63だが、G580はこれが“Gターン”などのスイッチに置き換えられる

 その格好からも想像が付くように、フロントウインドウが立っていて四角いボディのGクラスは空力的に不利なスタイリングでした。これを少しでも改善するべく、新型ではボンネット、Aピラーに被さっているスポイラー、フロントグリル、バンパーなどの形状を変更したり、モデルによってはフロントウインドウ上部にリップスポイラーを装着するなどしています。これにより、0.53だったCd値は0.44まで向上したそうです。メルセデスのEQSが0.20を達成している時代に0.44は決して自慢できるレベルではないものの、ちょっとでもよくしたいというエンジニアの気概が伝わってくる改良点だと個人的には思っています。

ガソリンとディーゼルはついに電動化された。これまでは標準仕様にもV8搭載モデルがあったが、V8はAMG専用となり、標準仕様は直列6気筒のみとなる

最大のトピックはBEV仕様のGクラス

 そしてこの度のマイナーチェンジの最大のトピックは、Gクラスに電気自動車(BEV)仕様が加わったことでしょう。これまで“EQG”の名称でコンセプトモデルが公開されてきましたが、正式な車名はG580 with EQテクノロジーとなりました。メルセデスはサブブランドである“メルセデスEQ”を昨年8月末に終了しており、“EQG”が使えなくなったようです。

 G580はガソリンやディーゼルと同じラダーフレームのシャシーを共有し、“梯子”の隙間に駆動用バッテリーが敷き詰められています。その容量は116kWhで、最大航続距離は473kmと公表されています。バッテリーを最大限に搭載するため専用のシャシーを用意する手もあったにもかかわらずラダーフレームにこだわったのは、BEV仕様になってもGクラスのオフロード走破レベルを下げたくないという、開発チームの強い思いがあったからだそうです。アンダーボディのバッテリー搭載部分は、防水と耐衝撃の目的でCFRP製のカバーで完全に覆われています。これにより、例えば渡河水深は850mmを実現しています。

ラダーフレームの隙間にバッテリーを敷き詰め、各車輪にモーターを配置したBEV仕様のG580 with EQテクノロジーが新たに加わった。通常であればスペアタイヤを背負う場所には、充電ケーブルを収納するボックスが備わる

 モーターは各車輪にひとつずつ、計4個を装備。オフロード走行で重宝するデフロックは、そもそもデフが存在しないため使用できませんが、モーターを個別に制御できるので、デフロック相当の性能を確保しているそうです。加えて、各車輪にモーターを配置することで“Gターン”と呼ぶ曲芸のようなことが可能とのこと。“Gターン”はその場で車両を回転させる機能で、約4秒で1回転、最大2回転まで。例えば右回転したい時には、まず“Gターン”のボタンを押し、右のステアリングパドルを引くと右回転、左を引くと左回転するようになっています。パドルを戻すとその時点で止まるので、90度や180度などドライバーの好みで回転角度を調整することも可能です。ひとつのモーターは147ps/291Nmを発生、システムとしての最高出力は587ps、最大トルクは1164Nmと公表されています。

 4個もモーターを装備するからこその機能を備えたG580ですが、気になる点もあります。それは車両重量。資料によれば3085kgで、ついに3トンを超えてしまいました。参考までにG450dの車両重量は2555kg、G500は2485kg、G63は2640kgなので、もっとも軽いG500より600kgも重いことになります。フロア下のバッテリーのおかげで重心はかなり下がっていることは容易に想像が付きますが、3トン超えのGクラスがいったいどんな走りをするのか、現時点では想像が付きません。5月に開催される国際試乗会に参加することになっているので、続報はしばしお持ちください。もちろん、“Gターン”も試してくるつもりです。

AMG G63にはSLなどですでに採用されている“AMGアクティブライドコントロール・サスペンション”が標準装備された。これは4輪のダンパーのオイルを回路で繋ぎ、状況に応じてそれぞれのダンパーの減衰力を最適化するというもの