「不法移民がペットを食べている」とデマをまき散らすトランプ前大統領(写真:AP/アフロ)

トランプ前大統領による「不法移民がペットを食べている」発言が大問題となっている。同様の主張を展開するバンス副大統領候補も含め、完全に開き直っている。そもそも、なぜハイチ系移民がこうしたヘイトの標的になったのか。背景には舞台となったスプリングフィールドをめぐる事情がある。移民に対するヘイトは命も危険に晒しかねず、こうした状況は日本を含むアジアからの移民にとってもひとごとではない。

(楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)

 9月15日午後(現地時間)、トランプ前大統領が米フロリダ州のゴルフ場で銃を持った男に狙われ、その後無事が確認された。今年7月、ペンシルベニア州で銃撃された事件に次いで2度目の暗殺未遂と見られている。

 トランプ氏の警護にあたっていた大統領警護隊が不審者に気付き発砲。容疑者の男(58)は逃走を試みたものの、ほどなく逮捕された。男は、過去のSNS上の投稿の内容などにより、反トランプと見られている。

 AP通信などによるとトランプ氏は事件後支援者らに、メールで自身の無事を伝えた。その前段の一文が興味深い。同氏は間近で銃声を聞いたと書いた上で「噂が手に負えなくなる前に言っておくが」と前置きしている。

 恐らくトランプ氏が何げなく書いたであろうこの一文は、まさに別の由々しき事態を想起させる。最近トランプ氏自身や共和党陣営がばらまいてきた虚偽の噂が、文字通り「手に負えない」深刻な事態を引き起こしているからだ。

 大統領としての返り咲きを目指すトランプ氏が、2度の暗殺未遂をも乗り越え無事なのは結構なことだ。しかし、同氏が先の民主党・ハリス副大統領とのテレビ討論において放った、「ペット食い不法移民」発言が、多数の人命を危険に晒している。

 共和党陣営からそうした行為に及んでいると名指しされたハイチ系住民は、それこそ「手に負えない」虚偽の噂話により、恐怖のただ中に放り込まれた。トランプ氏の発言から数日後、すでに共和党によって名指しされていた街の学校や市庁舎、病院までもが、爆破や銃撃予告などの脅迫を受け、学校閉鎖やロックダウン状態に追い込まれた。

 この街に暮らすほとんどのハイチ系移民は、合法的に米国に居住している。「不法移民が急増して問題を起こし、ペットまで食べている」というトランプ氏の主張は、真っ赤な嘘である。

 この妄言については、すでに多数の報道の通りだ。