デマの舞台、オハイオ州スプリングフィールドはどんな街?

 人口およそ5万8000人のスプリングフィールドでは、近年カリブ諸島の国・ハイチからの移民が急増した。その数は、米メディアの報道によっては1万2000人から2万人程度と推計されている。日本で著名なハイチ系米国人といえば、女子テニス・大坂なおみ選手の父親であろうか。

 ハイチは、西半球の最貧国と位置付けられている。2000年代に入ってからハリケーンや大地震など自然災害も続き経済的損失を被った上に、政情不安も続いている。2021年には、当時のモイーズ大統領が傭兵集団に暗殺される事件も起きた。

 貧困の上、自衛などのためにギャングに加わる若者も多い。今年に入ってからも警察や刑務所など当局が襲撃されるなど、ギャングが首都ポルトープランスの8割を支配していると言われる。ギャング抗争により、安定した生活が困難で深刻な状況に陥っている。

オハイオ州スプリングフィールド(写真:ロイター/アフロ)

 対してスプリングフィールドは、労働者階級の街だ。70年代ごろまで8万人だった人口は、2020年の国勢調査までに5万8000人ほどに減少した。かつては製造業の中心として繁栄したが次第に廃れ、多数の人口も流出してしまった。

 米ニューヨーク・タイムズ紙によれば市は対策として企業誘致を行い、2020年までに食品サービスや物流、マイクロチップメーカーなどを誘致し、およそ8000人の新規雇用を生んだ。2017年には日本の大手自動車部品メーカー東プレが、同地に工場を建設している*3

*3自動車部品の東プレがオハイオ州で新工場を建設へ —— 日本企業の対米投資に勢い(BUSINESS INSIDER)

 そのスプリングフィールドへ2017年ごろから流入してきたハイチ系住民は、不足していた人材を補う新たな労働力として期待された。ハイチ系の人々は、スプリングフィールドに製造業や倉庫関連の雇用が急増して仕事があることや、生活費が比較的安価であることも知り、コロナ禍以降急速に同地へ流入した。

 双方の需要と供給は、マッチしているかのように見えた。しかし、ハイチ人の流入ペースがあまりに速く、医療サービスや住宅、学校などを圧迫しているという事実は、市長などによって概ね認められている。

 だが当局の批判の矛先は、移民急増支援を行なっていないとして連邦政府に向けられているもので、移民そのものに対してではない。