「移民がペットを食べている」というトランプ氏の虚偽の主張に言及した電光掲示板(写真:ロイター/アフロ)「移民がペットを食べている」というトランプ氏の虚偽の主張に言及した電光掲示板(写真:ロイター/アフロ)

 ディープフェイクの影響が懸念された米大統領選だが、ふたを開けてみれば、選挙の行方を左右するほどの影響はなかった模様だ。もっとも、今回の選挙戦で問題視されたのは、兵器化する生成AIミームである。どういうことなのだろうか。(小林 啓倫:経営コンサルタント)

米大統領選と生成AI

 つい先日行われた米国の大統領選挙。既に大きく報じられている通り、共和党のドナルド・トランプ前大統領(いまや「次期大統領」だ)が当選し、年明けに第47代米大統領に就任することとなった。

 ちなみに、米国の大統領は2期まで務めることができるのだが、連続2期ではなく一度退任してからの返り咲きは、19世紀の終わりに第22代大統領・第24代大統領を務めたグロバー・クリーブランド以来となる。

 今回の米大統領選は、生成AIが普及してから初めて行われたものだった。それだけに、選挙のかなり前からさまざまな悪影響が懸念され、実際にトランプ陣営がいわゆる「ディープフェイク」(本物のように見える高品質のAI生成画像を利用し、偽情報を流す行為)を活用するケースも見られた。

 たとえば、各種メディアでも盛んに報じられたのが、歌手テイラー・スウィフトや彼女のファンたちが、トランプ支持を表明したというフェイクに関するものだ。

 これは今年8月頃に各種SNSで拡散されていた画像で、テイラー・スウィフトがトランプに投票するよう呼びかけていたり、スウィフティー(テイラー・スウィフトのファンたち)が「トランプ支持」と書かれたTシャツを着ていたりする内容となっている。

 いずれもAIで生成されたものと見られ、作者は不明だが、トランプはそれを引用して自身のソーシャルメディアサイト「トゥルース・ソーシャル」に投稿したのである。

 また今回の選挙でトランプを熱狂的に支持した、連続起業家のイーロン・マスクは、民主党のハリス副大統領が中国共産党を彷彿させるコスチュームを着ている画像をXに投稿している(「カマラ、初日から共産主義の独裁者になることを誓う。こんな格好、あり得なくない!?」というメッセージが添えられている)。

 ただ選挙戦が終わったいま、全体としては、生成AIによるディープフェイクの影響は心配されたほどではなかったという意見が出ている。

 たとえば、タイム誌は「AIの2024年選挙への影響は期待外れ」と題された記事を発表し、多くの国民がAIによる偽情報の拡散やディープフェイクによる混乱を懸念していたが、実際には選挙の行方を左右するほどの影響は確認されなかったと主張している。

 また、米国の情報機関ODNI(国家情報長官室)が発表した資料を引用する形で、外国勢力がAIを利用して選挙に影響を及ぼそうとしたものの、技術的な限界により大規模な影響には至らなかったと指摘している。