リスナーの減少に苦しむポーランドのラジオ局が驚くべきプロジェクトを始めた。番組の司会を務めていた人間のジャーナリストを解雇し、AIのパーソナリティに置き換えたのだ。しかも、このAIパーソナリティが同じくAIで生成したノーベル文学賞詩人にインタビューするというコンテンツを放送したため世論の批判は沸騰。プロジェクトは中止に追い込まれた。いったい、ポーランドで何が起きたのだろうか。(小林 啓倫:経営コンサルタント)
故人が遺したデジタルデータを活用して、その人の外見をCGで再現するだけでなく、人格や行動までを模倣したデジタルイメージをつくる「デジタル・レザレクション(Digital Resurrection)」が広がっている。
「レザレクション」は「(死からの)復活、よみがえり」を意味する英単語で、まさに個人がよみがえったかのように、対話や交流ができるようにする技術だ。具体的には、故人の写真やビデオ、音声、SNSの投稿などのデータを収集・解析し、AI技術を用いてバーチャルな存在として再構築する取り組みを指す。
デジタル・レザレクションは、遺族や友人が故人との思い出を共有したり、対話を通じて慰めを得たりする手段として注目されている。しかし、この連載でも何度か取り上げたように、その活用法が増える中で倫理的な課題が指摘されるようになっている。
今回紹介するのも、そんなデジタル・レザレクションの問題点が浮き彫りになった例だ。
人間のジャーナリストを解雇したポーランドのラジオ局
Off Radio Kraków(オフ・レディオ・クラクフ)は、ポーランドのクラクフを拠点とするラジオ局だ。運営は、ポーランドの公共放送機関Polskie Radioの一部であるRadio Kraków S.A.が行っており、予算の大部分も政府から拠出されている。
Off Radio Krakówは今年10月、ある大胆な改革を行ったことで注目を集めた。同局の番組で司会を務めていたジャーナリスト12人を解雇し、AIのパーソナリティに置き換えたのだ。
AIで生成されたパーソナリティは3人で、それぞれにヤクブ・"クバ"・ジェリンスキ(22歳の音響工学の学生で、テクノロジーと音楽の専門家)、エミリア・"エミ"・ノヴァク(20歳の学生で、ジャーナリズムを学んでおり、ポップカルチャーの専門家)、アレックス・シュルツ(23歳の元心理学学生で、社会問題やLGBTQ+文化に関心を持つ)というキャラクター設定がなされている。
彼らの容姿は、同局が発表したリリース上で確認できるが、いずれも実在する人物と言われたら信じてしまいそうなクオリティだ(画像は次ページ)。