ディープフェイク・ポルノの被害にあったテイラー・スウィフトディープフェイク・ポルノの被害にあったテイラー・スウィフト(写真:ロイター/アフロ)
  • Xで拡散されたテイラー・スウィフトのディープフェイク・ポルノ画像は全米に衝撃を与えた。
  • ディープフェイクを作成するツールは数多く、1枚の鮮明な画像があれば、すぐにディープフェイク動画を作成できる。
  • テクノロジーの進化の負の側面とも言えるディープフェイクに、私たちはどう対応すべきなのだろうか。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

ディープフェイクのターゲットとなった超大物セレブ

 1月下旬、X(旧Twitter)のトレンドに、奇妙なキーワードがランクインした。それは「Taylor Swift AI」。米国の超人気アイドル、テイラー・スウィフトの名前とAIを組み合わせた言葉だった。

 テイラー・スウィフトは実力派の女性シンガーで、米国だけでなく世界中で絶大な人気を誇っている。これまでに全世界で売り上げたアルバムの総数は、実に1億枚を超えると推定されているほど。2月4日に開かれた米グラミー賞では、史上最多となる4度目の最優秀アルバム賞を獲得し、その伝説に新たな1ページを刻んだ。

【参考資料】
Taylor Swift to receive Global Icon award at the 2021 BRIT Awards(Official Charts)

 それほどの人物であれば、SNSで名前がトレンド入りしても何の不思議もない、と思うかもしれない。しかし今回は事情が違った。このキーワードでXを検索すると、そこに現れるのは、テイラー・スウィフトの性的な画像を含むポストだったのである。

 もちろん、彼女がスキャンダルを起こしたわけではない。その画像は、いわゆる「ディープフェイク・ポルノ」だった。

 高度なAI技術を用いて、本物そっくりのフェイク画像・フェイク動画を生み出す「ディープフェイク」。日本でも昨年、岸田首相が卑猥な言葉を言ったかのように見せかけた動画が作成され、国会で言及されるほど注目されたことが記憶に新しい。

 そうした政治家をターゲットとしたディープフェイクも問題なのだが、実はディープフェイクのターゲットとなっているのは、圧倒的に女性の方が多い。

 理由はご想像の通り。AI技術を使って、ポルノ映像の顔を別の誰かと入れ替えたり、あるいはすべてをCGで描いてしまったりするなどして、実在の人物が性的な行為をしているかのような画像・動画を生み出すのである。

 そうした性的なフェイクコンテンツが特に「ディープフェイク・ポルノ」と呼ばれているわけだが、2023年に発表されたディープフェイクの調査結果によれば、オンライン上で公開されているディープフェイク動画のうち、実に98パーセントがディープフェイク・ポルノに該当すると見られるそうだ。

 そして、ディープフェイク・ポルノのターゲットの99パーセントが女性であるとのこと。さらに同じ調査では、ディープフェイクのポルノビデオに登場する人々の94パーセントが、エンターテインメント業界で働く人物とのことである。

 その被害者のひとりに、テイラー・スウィフトがなってしまったというわけだ。

【関連資料】
2023 STATE OF DEEPFAKES(HOME SECURITY HEROES)

 世界的アイドルがディープフェイク・ポルノの被害にあったということで、それに対する反発も急速な広がりを見せた。