医師が患者とコミュニケーションする際などのサポート役として生成AIが使えるのではないかという研究も始まっている(写真:アフロ)
  • 医療における生成AI活用に関して、米国の医師らが小児科の症例を生成AIに診断させたところ、8割以上という確率で誤診が行われるという惨憺たる結果になった。
  • その要因は、AIに与えた学習データの質。玉石混交のデータで学習したため、判断精度の低下が起きたという。
  • 生成AIによる生産性向上が期待されているが、期待通りの成果を出すにはまだまだ工夫が必要なようだ。

(小林 啓倫:経営コンサルタント)

 2023年のユーキャン新語・流行語大賞のトップ10に選ばれるほど、昨年は生成AIの話題が席巻した1年となった。その勢いは2024年以降も続きそうだ。

 コンサルティング会社のマッキンゼーが昨年発表したレポートによれば、生成AIにはさまざまな産業の生産性を大幅に向上させる可能性がある。彼らが各種のユースケースを調査したところ、全体で世界経済に年間4兆4000億ドル(約630兆円)もの付加価値を生むことが期待できるという。

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What’s the future of generative AI? An early view in 15 charts(McKinsey & Company)

 日本とドイツの2023年度の名目GDPは、それぞれ約4兆2000億ドルと約4兆4000億ドルになると予測されている。それを考えれば、生成AIのインパクトは一国の経済を左右しかねないほど大きなものと言えるだろう。

 また、IT系調査会社ガートナーのアナリストは、「生成AIは、インターネットと同様、またはそれ以上の進化をもたらし、企業のビジネス・スタイルや人々のライフ・スタイルを変えていく」と予測。企業に対して「生成AIの出現を単に業務効率化の話だけとして捉えるのではなく、むしろ、産業革命の始まりと捉える必要」があるとアドバイスしている。

【関連リンク】
Gartner、「生成AIのハイプ・サイクル:2023年」を発表-2026年までに、企業の80%以上は生成AIのAPIを使用して、生成AIに対応したアプリケーションを本番環境に展開するようになる(Gartner)

 18世紀後半に起きた最初の産業革命は、欧州の島国だった英国を経済大国へと押し上げる大きな原動力となった。同じような経済発展をもたらす力を、生成AIは秘めているというわけだ。

 一方で、生成AIには「ハルシネーション(幻覚、生成AIが事実でない情報をさも事実であるかのようにアウトプットしてしまう現象)」や偏見(特定の性別や人種に対する差別的言動や判断をしてしまうなど)のように、その回答の精度や適切さに問題があることも指摘されている。

 そして最近、新たに医療おける生成AI活用に関して、警鐘を鳴らす研究論文が発表された。小児科の症例を生成AIに診断させたところ、8割以上という確率で誤診が行われたというのだ。

 以下、何が起きたのかを詳しく見てみよう。