ドナルド・トランプ氏が米大統領に再選された。選挙人票と一般有権者の得票数でトランプ氏がハリス候補を上回り、上院・下院の議席数でも共和党が民主党を上回る可能性が高い。なぜトランプと共和党は勝つことができたのか。アメリカ、日本、そして世界の情勢はいかに変化する可能性があるのか──。現代米国論が専門の渡辺靖・慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)教授に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト)
──今回の米大統領選では、トランプ氏が予想を大きく上回る差をつけて勝利しました。
渡辺靖氏(以下、渡辺):思ったより早く決着がついた上に、激戦州7つでトランプ氏が勝利したことに驚きました。一度、再選に失敗した大統領が返り咲く展開は132年ぶりのこと。しかも、彼はかつて2度弾劾裁判にかけられて、4つの案件で訴追されました。このような状況の人が再選するのは歴史的なことだと思います。
今のアメリカは住宅費も高く、物価が高止まりしている状況です。統計的にはインフレは下がっていますが、生活感覚としては高止まりしている。ハリス氏は、多様性や民主主義といった理念を前面に押し出しましたが、「理念よりも現実の苦しい状況を何とかしてほしい」という有権者の声が強かったということだと思います。
──トランプ氏は訴追などの問題を抱えています。こうした問題は今後、足かせになっていくでしょうか?
渡辺:事実に即していない発言、差別発言、スキャンダルなどをトランプ氏はさんざん経てきたのに、ほとんど無傷のように人気がある。国民全体ではありませんが、少なくとも支持者たちはそうしたことを問題としていないということです。
トランプ氏がぶれることなく、どこか深いところでアメリカに変化をもたらそうと闘い続けている姿勢が共感を呼ぶのだと思います。
7月にペンシルベニア州で銃撃されて、血を流しながら立ち上がって拳を振り上げた絵は、そうした姿勢を象徴的に表しました。撃たれても、すぐに逃げ出さずに、立ち上がってファイトを見せた。強い指導者像は、共和党支持者に限らず、多くの人々の琴線に触れたと思います。
それに対して、選挙戦の終盤で、ハリス側の応援に次から次へと高名なセレブが登場した場面も象徴的でした。盛り上がりを演出したかったのですが、そのような方法を使わなければ人を集めることができなかったようにも見えました。
民主党はセレブの党で、裕福で、華やかで、上品で、進歩的で、というイメージが持たれている中、国民は「自分たちの生活はよくならない」という対比を強く意識させられたと思います。
──ハリス氏は住宅購入支援、食品価格の引き下げ、子育て世帯の税額控除といった経済政策を提案しましたが、あまり評判が良くありませんでした。