デリスキングからデカップリングに向かうアメリカ

渡辺:バイデン政権の副大統領という立場で、現政権と大きく違った方針を打ち出せなかったという現実があったと思います。「3年半も副大統領としてなぜもっと状況を改善できなかったのか」という批判にもさらされる、バイデン政権の連帯責任を問われる立場だったと思います。

 民主党の候補者がバイデン氏からハリス氏に代わり、刷新感があった時期はまだよかったと思います。

 ただ、8月の党大会や、9月のテレビ討論会あたりまでは事前に準備もできていましたが、その後、メディアから直接インタビューを受けるようになると、うまく答えられず、失望感が広がりました。予備選を経ていなかったので、問われた時にどう返すかという訓練が積めていなかったのだと思います。

──経済、外交、安全保障などなど、第二次トランプ政権のテーマになっていくのは、どんなことだと思われますか?

渡辺:トランプ氏は「アメリカ第一主義」を前面に掲げてきました。ですから、同盟国であっても関税を一律10〜20%かけると主張しています。特に、中国に対しては厳しい対応を約束しています。

 国内では、共和党の特徴でもありますが、減税や規制緩和を掲げて、経済のエンジンを吹かせるとみられています。少なくとも、そうした政策を期待して短期的には株高になっている。経済が良くなれば、ドル高になっていくという筋立てです。

 安全保障に関しては、バイデン政権のように「自由に基づく国際秩序」を掲げるのではなく、アメリカの国益を踏まえて個々のケースに向き合っていくという姿勢を堅持すると思います。

──トランプ氏は「中国に対しては関税60%」という、ちょっと現実離れした数字を提示しています。第一次トランプ政権は中国に強気で、続くバイデン政権も対中ではトランプ政権のスタンスを引き継いだ感がありました。アメリカは、ますます中国に厳しくしていくのか、これ以上厳しくしていけるのか、どう思われますか?

渡辺:厳しくしていくと思います。バイデン政権はたしかに対中強硬姿勢ではありました。ただ、「デリスキング」、すなわち安全保障や経済の観点から重要な先端技術に関しては中国に渡さないという姿勢を取りましたが、それ以外の部分では従来と同じように貿易を続けていました。

 でも、トランプ政権になると「デカップリング」に向かっていくと思います。サプライチェーンも含め、経済圏をより切り離していくことになるということです。

 今後、トランプ政権は中国からモノが入ってくるのを防ぐために高い関税をかけるでしょう。「スーパー301条」など、大統領は関税に関して強い権限を持っているので、高関税をかけることは可能です。

 もちろん、中国の報復関税もあると思います。結果、米中で経済の対立が深まる可能性があり、中国と関係の深い日本は難しいかじ取りを迫られると思います。