トランプ陣営の生成AI活用は「攻撃的」
ではトランプ陣営は、ミーム拡散のためにどのようなコンテンツを生成したのだろうか。ひとつ興味深い研究結果が発表されている。
発表したのはダートマス大学の研究者らで、彼らは今回の米大統領選挙におけるソーシャルメディア上のAI生成コンテンツの影響を分析するために、インスタグラムに投稿されていた約24万枚の画像を分析。その上で、ミームとAI生成コンテンツの関係性について考察を行っている。
それによると、ミーム形式で提示されるコンテンツは強いエンゲージメント(多くの「いいね」やコメントの獲得)を生むそうだ。AI生成コンテンツ単体ではエンゲージメントを増加させる傾向は見られず、ミームとAI生成を組み合わせた場合に、相乗効果が生まれるそうである。
さらに面白いのは、党派による違いだ。民主党はAI生成コンテンツを、自党への支持を拡大するために使用する傾向があったのに対し、共和党は民主党を攻撃するために使用する傾向があったことが確認されている。
たとえば、ハリス陣営は「米国の国旗をマントのように羽織った猫」の画像をAI生成し、「子供のいない猫好きの女性たちはハリス2024を支持」というコメントを付けてソーシャルメディア上に投稿している。
これは選挙戦中、副大統領候補であったJ. D. バンスが、米国は「子供のいない猫好きの女性」によって運営されている(ので悲惨なことになっている)と発言したことに対応したものだった。
これはまさに、相手の発言を否定するのではなく、逆手にとって民主党への支持を拡大するために生成されたAI画像と言えるだろう。
一方の共和党は、先ほどから示している通り、相手候補や仮想敵を攻撃するAI生成コンテンツを多く投稿する傾向が見られた。
研究者らは、こうした「ミームをAI生成コンテンツで補強し、情報戦に活用する」という行為を、「AI生成ミームの兵器化(generative memetic weaponization)」と名付けている。まさしくトランプ陣営は、生成AIを兵器としてハリス陣営の攻撃に活用していたわけだ。
ディープフェイクとは異なり、AI生成ミームは直接的に嘘をつくものではない。しかし、だからといって安心ということはなく、誤った認識(まさに「移民はペットを食べる」など)を間接的に拡散するものであれば、ディープフェイク同様に警戒が必要だ。
これから今回の米大統領選がさまざまな形で分析されることになるだろうが、それを通じて、生成AIがどのような形で選挙を歪めていくのか、真のリスクが明らかになっていくに違いない。
【小林 啓倫】
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
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