ミーム拡散に利用される生成AI
タイムズ誌も全面的にディープフェイクの影響を否定しているわけではなく、技術の進化が続けば、将来的に懸念が現実のものになるだろうという研究者の見解を紹介している。
とはいえ、確かに「本物と見分けがつかないほど精巧に作られたフェイク画像により、米国民の多くが騙される」などという事態は発生していない。
ディープフェイクが今回の選挙でさほど存在感を示さなかった理由のひとつは、AI生成コンテンツに稚拙なものが多かったためだ。
たとえば、フォーチュン誌は選挙前から「多くの政治的AIディープフェイクが漫画的なもの」と指摘する記事を発表し、さまざまな「漫画的」フェイクコンテンツを紹介している。
トランプが猫に乗りながらアサルトライフルを構えている動画や、子猫の群れが「奴らに私たちを食べさせないで、トランプに投票しよう!」と書かれたプラカードを掲げている画像、といった具合である。
トランプは選挙戦中「移民がペットを食べる」という根拠のない主張を繰り返しており、猫画像はその文脈で投稿されたものだ。
先ほどのイーロン・マスクが拡散させたハリス副大統領の画像も、本当に彼女が共産主義者に見えるようなクオリティを目指したものというより、「彼女が当選すればこうなるぞ」と揶揄する意図の方が強いだろう。
では生成AIが選挙戦にまったく活用されなかったのかというと、もちろんそんなことはない。ディープフェイク用に精巧なコンテンツを生み出すのではなく、いわゆる「ミーム」を拡散するための補強として、精巧ではないが耳目を引く画像や動画を生成することに活用されたという指摘がなされている。