
(スポーツライター:酒井 政人)
とにかくリズムを崩さないように
約3万8000人が駆け抜けた東京マラソン2025。それぞれのランナーにドラマがあるなかで“特別な一日”になったのが市山翼(サンベルクス)だろう。ほぼノーマークだったにもかかわらず、有力選手を抑えて“日本人トップ”に輝いたからだ。
市山は第3集団でレースを進めて、中間点を1時間02分44秒、30kmを1時間29分13秒で通過。ペースメーカーが離脱すると、大都会を力強く駆け抜けた。
「下りが得意ではないので、前半はうまく動かすことができませんでした。でも下りが終わってからリズムを取り戻せたことで、後半の走りにつながったかなと思います」
井上大仁(三菱重工)らを引き離すと、第2集団でレースを進めた日本人選手に急接近する。まずは赤﨑暁(九電工)と浦野雄平(富士通)を抜き去り、39.8kmで池田耀平(Kao)を逆転。40kmまでの5kmを15分03秒で突っ走り、日本人トップを奪ったのだ。
「日本人選手を抜くことより、前にいた外国人に離されないことを意識していました。タイムもあまり意識していなくて、とにかくリズムを崩さないように走ったんです。我慢強さと根性。他のことを気にしている余裕はないので、我慢、我慢の積み重ねで30km以降は走りました」
市山は日本歴代9位となる2時間06分00秒の10位でフィニッシュ。東京世界選手権の参加標準記録(2時間06分30秒)も突破した。
「まだ先に日本人選手がいると思って走っていたので、レース後に日本人トップだと知りました」と驚いたが、市山は自信を胸に秘めていた。
「これまでのマラソンは練習を完全に消化できたことがなかったんですけど、今回は練習をすべて消化しました。調子がいい状態で臨めたのが、タイムや順位につながったのかなと思います。特に後半の粘りが功を奏したと思いますね。東京世界陸上を目標にしていたので、どうなるかはわかりませんが、選ばれるのであれば、もう一度活躍したいなと思います」
自己ベストを1分41秒も更新した市山。今回の快走で今年9月に開催される東京世界陸上の代表候補に名乗りを挙げたことになる。