元バスケ部で現在はスーパーに週4回勤務
東京マラソンで上位に入る選手は、日本長距離界のエリートといえる存在だ。高校時代から全国大会に出場して、箱根駅伝でも活躍。実業団の強豪チームの場合、一般業務はほとんど免除というケースも少なくない。
一方、市山は独自のキャリアを積み上げてきた。
中学時代はバスケ部で大宮東高から陸上競技を開始する。「中学時代は体力をつけるために走る練習がピカ一速かったんです。高校はダンス部にでも入ろうと思ったんですけど、短距離の先輩に『長距離向いているよ』と言われて、その先輩のおかげですね」と“運命の出会い”を果たす。しかし、すぐに才能が開花したわけではなかった。
進学した中央学大では25人いた同期のなかで5000m自己ベストが下から3番目。そこから這い上がってきた。箱根駅伝に到達したのは最終学年になってから。花の2区(区間17位)を任されると、卒業時にはハーフマラソンのタイムでチームナンバー1になっていた。
大学卒業後は、「走るのが仕事になるのなら」と実業団の道へ。埼玉医大グループ、小森コーポレーションを経て、2023年4月にサンベルクスへ移籍した。
マラソンは2021年2月のびわ湖毎日で2時間07分41秒の自己ベストをマーク。2023年は2月の別府大分毎日で3位(2時間07分44秒)に食い込むと、10月のMGCでは13位に入っている。
現在はスーパーマーケット「ベルクス」の草加青柳店グロサリー部に所属。火、水、木、土の週4日勤務して、発注や品出しを担当している。8時から13時まで働いた後、トレーニングを積んできた。なお東京マラソン前は少しシフトを減らしてもらったという。
「働きながら走ることへの不満はありません。自分以上にもっと働いている人はいますから。それに会社の人やお店に来る方が応援してくれる。その声も力になっています。またペットボトル飲料の入ったダンボールを積むことがあるんですけど、うまくカラダを動かさないとギックリ腰になったりします。ちょっとスクワット気味に上げたり、腹筋を意識して上げるなど、少しでも競技につながるように工夫しています」
市山は与えられた環境のなかで自分を高めてきた。今年は「あまり調子が良くなかった」という2月9日の全日本実業団ハーフマラソンを自己ベストの1時間00分22秒で優勝。自信をつけて、東京マラソンに臨んだ。
ゴールは男子5000mと10000mで世界記録を保持するジョシュア・チェプテゲイ(ウガンダ)と1秒差。世界の超エリートに肉薄して、笑顔を見せた。
「自分の目標は他の競技者、市民ランナーの方々の目標や憧れになることです。好タイムを出すより、熱いレースをするのが自分の成功だと思うので、今回はうまく走れたかなと思います」
市山の人生ストーリーを知ると、今回の走りがさらにカッコよく見えてくる。