今回の選挙でわかったディープフェイクの選挙的意味

 ミームとは、主にインターネット上において、広く拡散されている話題や言動、コンテンツのことを指す。要するに、「バズっている」ネタである。

 たとえば、TikTok上で特定のダンスや楽曲が短期間で、爆発的に流行ることがあるが、これらはまさにミームである。また、今年の新語流行語大賞の候補にも選ばれている、人気ドラマ発の「はて?」や「もうええでしょう」といったセリフなどもミームの一種だ。

 前述の通り、子猫たちが「トランプに投票しよう」というプラカードを掲げている画像は、「移民はペットを食べる」というトランプの主張に基づいて生成されたものだ。

 この主張に明確なエビデンスは示されておらず、大統領選挙期間中に行われたテレビ討論会においても、司会者から「根拠がない」として訂正されたほどである。しかし「移民はペットを食べる」という主張自体がミーム化し、反移民感情を煽る概念として拡散されることとなった。

 そうした中で生成されたこの画像は、もちろん本当に移民がペットを食べている証拠として示されたものではない。「ペットを食べる」というミームの印象をさらに鮮烈なものにし、「これウケる、みんなに共有したい!」といった感情を引き出すために作られたものだ。

 そのような目的であれば、作成する画像は現実にあり得るような内容ではなく、逆にあり得なければあり得ないほど感情的なインパクトは大きくなるだろう。そして生成AIは、現実にはあり得ないような画像を生み出すことを得意としている。

 前述のフォーチュン誌の記事では、共和党で戦略立案を担当するケイレブ・スミスという人物が語った「(AI生成のコンテンツの)目的は楽しませることであり、騙すことではない」という言葉を紹介している。

 まさに今回の大統領選において、生成AIはディープフェイクを実現する手段ではなく、政治的な主張をエンターテインメントとして拡散する手段として使われたと言える。