2.日米地位協定の概要と主権免除

 本項は、参議院常任委員会調査室・特別調査室・藤生将治著「日米地位協定の運用をめぐる主な論点と現状(上)」を参考にしている。

(1)日米地位協定の概要

 日米地位協定は、在日米軍による施設・区域の使用を認めた日米安全保障条約第6条を受け、米軍の円滑な活動を確保することを目的として、米軍による日本における施設・区域(いわゆる米軍基地)の使用の在り方や日本における米軍等の法的地位について定めた条約である。

 旧日米安全保障条約とともに締結された日米行政協定を継承する形で、1960年1月、現行の日米安全保障条約とともに署名され、国会承認を経て、同年6月に発効した。

 日米地位協定は、その主な内容として、①施設・区域の許与および返還の在り方、②米軍の施設・区域内外の管理、③船舶・航空機の出入・移動、④米軍人・軍属等の出入国・移動、⑤日本国法令の尊重、⑥刑事裁判権、⑦民事請求権等を定めている。

 また、日米地位協定は合意議事録等を含む大きな法的枠組みとされており、合意議事録や日米合同委員会(日米地位協定第25条に基づく協定の実施に関する協議機関)における合意、さらに2つの補足協定(法的拘束力を有する国際約束である行政取極=ぎょうせいとりきめ)に基づいて実際の運用がなされている。

 2つの補足協定のうち、2015年9月に署名され、発効した「環境補足協定(日米地位協定の環境補足協定)」は、その主な内容として、

①米国側が「日本環境管理基準」(JEGS)を発出・維持するとともに、同基準として、両国又は国際約束の基準のうち最も保護的なものを一般的に採用すること(第3条) 、

②環境に影響を及ぼす事故(漏出)が現に発生した場合と施設・区域の返還に関連する現地調査(文化財調査を含む)を行う場合における施設・区域への立入手続の作成等を行うこと(第4条)等を定めている。

 また、2017年1月に署名され、発効した「軍属補足協定(日米地位協定の軍属に関する補足協定)」は、日米地位協定が一般的な形でしか規定していなかった「軍属」の内容を国際約束の形で補足し、明確化するものであり、

①軍属の構成員の認定(第3条1)、

②コントラクター(米軍との契約により特定の業務を行う業者)の被用者についての認定基準の作成(第3条2)、

③コントラクターの被用者についての通報・見直し(第5条)などを定めている。

 次に、日米合同委員会合意による刑事裁判手続に関する運用の改善についての事例を紹介する。

 日本側が裁判権を行使すべき米軍人および軍属(以下「米軍人等」という)については(例えば、公務外で罪を犯した米軍人等)、被疑者である米軍人等の身柄を米側が確保した場合には、日米地位協定上、日本側が被疑者を起訴する時まで、米側が被疑者を引き続き拘禁することとされている(第17条5(c))。

 1995年に沖縄県で発生した少女暴行事件を受けて、米軍人等の身柄の引渡しに関して日米間で協議した結果、同年、殺人および強姦について、起訴よりも前の段階で米側から身柄の引渡しがなされる途が開かれた(刑事裁判手続に関する日米合同委員会合意:1995年10月)。

 その後、6件の事件について、1995年の日米合同委員会合意に基づく起訴前の身柄引渡しの要請が行われ、そのうち、5件について起訴前の身柄引渡しが実現した。

 残り1件については、被疑者の身柄は、起訴後に日本側に引き渡された。