(2)主権免除

 こうした大きな法的枠組みとしての日米地位協定の運用を見るに当たって、そもそも在日米軍に対して、日本の法令が適用され得るのかという問題がある。

 国際法上、国家がその行為や財産について外国の裁判権に服することがないことを「主権免除」(もしくは国家免除)という。

 例えば、外交関係並びに外交上の特権及び免除に関しては、主として慣習国際法を法典化する形で「外交関係に関するウィーン条約」が作成されている。

 外交官は、その任務達成を確保するという機能的な観点から、受入国の領域内における身体の不可侵等の特権や受入国における刑事裁判権からの全面的な免除、一定の範囲の民事裁判権および行政裁判権からの免除を享受している。

 一方、国家機関の一つである軍隊に対する主権免除については、慣習国際法を法典化した一般的な条約は存在しておらず、国際法上、どのような場合にそうした主権免除が認められるのかが問われることになる。

(3)外国軍隊の主権免除に関する日米政府の考え方

 外国軍隊の主権免除に関する日米政府の考え方は次の通りである。

●日本政府の考え方は、一般に、受入国の同意を得て当該受入国内にある外国軍隊およびその構成員等は受入国の法令を尊重する義務を負うが、その滞在目的の範囲内で行う公務については、受入国の法令の執行や裁判権等などから免除されるとしている。

●米国政府の考え方は、当該国に所在するすべての者は当該国の法令の適用対象となることは、一般的に受け入れられている国際法の規則 (a generally accepted rule of international law)であるとした上で、地位協定によって、受入国は派遣国の利益のために、本来有する一定の管轄権およびその他の権利を放棄することに合意することから、地位協定はそうした国際法の規則に対する合意された例外を設けているとしている。

(4)筆者コメント

 日本政府は、日本に駐留する外国軍隊に対して、公務については受入国の法令の執行や裁判権等などから免除されるが、非公務については日本の法令が適用されるとしている。

 ところが、既述したようにカンボジアやジブチに派遣された自衛隊は、公務・非公務にかかわらず、受入国の法令の執行や裁判権等などから免除されている。

 すなわち、日本は国内と国外でダブルスタンダードを採っていることになる。

 既述したが、日本も外国軍隊を受け入れる受入国の立場から地位協定を見るのでなく、派遣国の立場からもどうあるべきかを考えるべきであろう。