4. 日米地位協定の改定が難しい理由

 2024年9月27日の自民党総裁選で勝利した石破新総裁に対し、米政府は、石破氏の日米地位協定の見直し発言に対して警戒感を示している。

 今後、日米関係の摩擦の種となる可能性もある。日本の霞が関も警戒感を示しているに違いない。

 日米地位協定は1960年の締結以来、一度も改定されていない。なぜなら、日米地位協定は、日米安全保障条約第6条に基づいて締結された条約であり、改定には国会・議会の承認を必要とする。

 国会・議会の議論では必ず日米安全保障条約の在り方が議論となるであろう。日米両政府とも日米安全保障条約の見直しに着手したくないという思惑があると筆者は見ている。

(1)日米安保の片務性

 地位協定の改正には米国議会の承認が必要となる。

 米国にとって不利益となる日米地位協定の改定は米国国民の世論を刺激する。その際、日米条約が片務性であることが明らかになる。

 自国優先主義を主張するドナルド・トランプ前大統領やその支持者などは、在日米軍の撤退を要求するであろう。

 従って、日米地位協定の改定は在日米軍の日本からの撤退につながりかねない。このリスクを冒したくないというのがこれまでの日本政府の本音であろう。

(2)裁判制度の違い

 米国は、軍人等を対象とする特別な刑事司法制度(以下「軍事司法制度」という)を設けている。

 米国では、常時かつ国内および国外(当然日本を含む)において軍事裁判所が設置されおり、在日米軍においても日常的に軍事裁判が開催されている。

 米国は米国軍人を軍事裁判所で裁きたいと思っている。

 また、米国が他国に駐留する米軍の取り扱いを定めた地位協定の規定の中でも、とりわけ刑事裁判権にこだわってきたのは、外国で罪を犯して捕らえられた米兵・軍属がその国の裁判所で裁かれる場合に、人権が守られない可能性について、米国世論が過敏に反応するからである。

 さて、日本の司法制度は米国から信用されているのだろうか。

 最近の新聞には、捜査機関による証拠捏造や供述を強制する非人道的な取り調べなどの文字が並んでいる。

 これが、今の日本の司法制度の実情と誤解する米国人もいるであろう。

(3)主権をめぐるせめぎあい

 外国軍が自国に駐留するときに問題となるのが、自国の法律を適用するかどうかである。

 派遣国からすれば、できるだけ主権(行動の自由)を制限されたくない。

 受け入れる側からすれば、主権国家である自国の領土内にいる以上は、自国の法律を守らせたい。

 そのせめぎ合いの中で、外国軍にどこまで自国の法律の例外を認めるかを定めたのが、地位協定である。

 特に、米国は行動の自由を重んじ、かつ傲慢な国柄である。