初めに、今年1月末から2月にかけての埼玉県八潮市の気象情報を確認しておきましょう。
1月26日に雨が降っていますが、それから1月末にかけては時折曇りを挟んて概ね晴天。
これが2月2日から5日にかけて雨天となり、6日以降も曇りがち、晴天の日は多くありませんでした。
なぜこんな天気の話を始めたのか?
眼前の状況をあるがままに見る科学的な観点から、物事を考える大切さをお話ししたいからにほかなりません。
前々回稿、前回稿と「八潮陥没」の問題を基礎科学の観点から冷静に検討、多くの読者にアクセスしていただいています。
今回は、前回末尾に記したように「下水」「下水管」に注目し「なぜトラックの運転席は、下水管中を何メートルも押し流されたのか?」を考えてみたいと思います。
当初は押し流された距離が100メートルから200メートルといったあいまいな報道がなされ、穴から30メートルほどの地点と特定」という報道があったのは、事故発生から2週間が経過した2月11日のことでした。
これは東京大学生諸君などでもごく普通にそうなのですが、5メートルとか100メートル、30メートルとか言っても日常生活の量的な感覚にはピンときません。
でも、例えば下水管の直径が5メートルというのを、単線の地下鉄が走る地下トンネルの直径よりやや小さいと表現したら、イメージが湧くでしょう。
その大きさの円筒形の空洞が、下水管として道路の下に設置されていると思えば理解しやすいと思います。
また100メートルという距離は、標準的な小中学校校庭の長辺(90メートル程度)よりも長く、もし200メートルであればその2倍、中学校庭の1周150メートル陸上トラックよりも長い距離、30メートルなら学校プールより長い距離になります。
今回被災したトラックの運転席部分が下水管=地下鉄トンネルほどの穴の中を押し流され、土砂とともに水路を堰き止めている状態などと、日常生活の直感に訴えるよう講義すると、理解の入り口に立つようです。
日頃この連載は、一個人として書いて強調しないようにしていますが、かつて2019年10月の「ものすごく『臭かった』多摩川氾濫」や2021年6月の「コロナに『終息宣言』出す最新技術」にも記したように、私が下水に関して学識経験者としてプロジェクトに関わった時期があります。
特に後半の「下水PCR」については、後輩の都市工学科教授やその元学生(当時は准教授)などを伴って、参議院議員会館にレクチャーに赴き国土交通大臣宛に意見書を提出、前年の新型コロナウイルス感染症蔓延開始からまる1年かかりましたが、パンデミックの早期予測に有効な下水PCRを予算に組み込んでもらうことができました。
自ら「専門家」と称することはありませんが、国プロの分担者として、あるいは2000年から四半世紀余、関連基礎科目を担当してきた一国立大学教官として穏当に指摘できる、今回「陥没」と下水、とりわけ「雨水」との関連を検討してみましょう。