指導力には韓国内の評価が高いが、なにせ肩書が大統領代行の代行では・・・(大統領代行の代行に就任した崔相穆副首相、2024年12月27日撮影、写真:AP/アフロ)

「韓国が標的にならないことを願うだけだ」

 2025年2月初めに米国・ワシントンで情報収集にあたった韓国の大企業の役員はため息をつく。

「ちょうど石破茂首相が訪米した時も私は現地にいた。日本はうまく対応した。韓国側の対応は大丈夫なのか心配でたまらない」

 米ドナルド・トランプ大統領の発言や新政権が次々と打ち出す政策は韓国でも連日大きな関心を引いている。

 尹錫悦(ユン・ソンニョル=1960年生)大統領に対する憲法裁判所の弾劾審判と並ぶトップニュース扱いだ。

今からは総力戦だ!

「今からは通商総力戦だ」

 2025年2月18日、ソウル政府庁舎での国務会議。崔相穆(チェ・サンモク=1963年生)副首相兼企画財政部長官はの口からは「戦争」という単語が何度も出てきた。

「米国発の通商戦争にどう対応するかに国の命運がかかっている」

「トランプ政権が関税戦争の引き金を引いたことで、我が国の輸出戦線は非常事態になった」

 経済官僚出身でいつも冷静沈着な言動で知られる崔相穆副首相が強い口調になったのは、事態の深刻性とともに、韓国内で「今の政府で対応できるのか」との不安感が高まっていることを意識したためだとみられる。

 韓国の特に産業界で不安と衝撃が広がっている理由は、まずは、トランプ政権が打ち出した通商政策が韓国の企業経営や経済全体に打撃を与える可能性が高いことだ。

 トランプ政権は、相互関税、鉄鋼・アルミニウム輸入品に対する25%の関税、輸入自動車に対する関税などを立て続けに打ち出している。

 関税付加を伴うこの通商政策は、米国にとってすべての貿易赤字国が対象だが、まずはカナダとメキシコ、さらに中国を標的にしていることは明らかだ。

 一般的には、その次の標的はEU(欧州連合)との見方が強い。