「タカアシガニが茹ってしまう」

 その結果、現在の戸田では、客が店に入るとまず水槽の中から好みのタカアシガニを選び、それを板長が丸ごと蒸すなど調理して出すのが普通になっている。

 つまり、漁師にとっては、漁に出てタカアシガニが獲れても、死んでしまったら商品価値が下がってしまうということだ。このため漁師たちは船倉の氷水と塩分とのバランスに注意を払いながら漁場からタカアシガニを生かしたまま持ち帰っている。

戸田港で水揚げされたタカアシガニ

 ところがここ数年、船で運ぶ以前に、せっかく獲れたタカアシガニが網の中で弱り、死んでしまうのだ。

「海底から網を引き上げている途中でタカアシガニが茹ってしまう」

 タカアシガニが生息している海底は水温が10度以下。一方、駿河湾の海面は今年9月15日の時点で29.4度。10年前の25度と比べると4度以上高くなっている(水温は気象庁のホームページより)。

 水温わずか数度の違い。陸で生きる我々人間にとっては大袈裟に聞こえるかもしれないが、水中での1度の違いは生物にとって陸以上に影響が大きいと言われる。

 この水温変化を漁師たちは日々の生業の中で感じているのだ。このままでは漁師のみならず町全体の経済活動にとっても大きな痛手となる。残念ながら海水温を元に戻す特効薬はないが、少しでもこの危機を食い止めるには、今後どうすべきなのか。