
東京電力福島第一原子力発電所の過酷事故で生じた「除染土」をどうするか。原発事故から14年経っても行く末が不透明なこの問題について、福島県双葉町の伊澤史朗町長(66)は、同町に立地する中間貯蔵施設に集められた除染土を双葉町および福島県内で再利用してもいいのではないかとの考えを示している。中間貯蔵施設の除染土について、政府は2045年までに福島県外へ運び出して最終処分すると約束しているが、今のところめどは立っていない。仮に除染土を双葉町や福島県で受け入れた場合、放射性物質を含んだ土が福島に残ってしまう恐れはないのか。伊澤町長に胸の内を聞いた。
(西村卓也:フリーランス記者)
苦渋の決断だった中間貯蔵施設の受け入れ
伊澤氏は双葉町議会議員を経て、東日本大震災後の2013年の町長選に出馬し、初当選。今年1月に3期連続の無投票で4選を果たした。
双葉町には東京電力福島第一原発が立地しており、東日本大震災と原発事故で大きな被害を受けた。役場は震災後、埼玉県加須市や福島県いわき市に仮庁舎を設けていたが、2022年8月に町内の避難指示が一部解除され、JR双葉駅前に新庁舎が完成した。筆者によるインタビューはこの新庁舎の町長室と電話で結んで行われた。

除染土の再利用をなぜ双葉町内で受け入れる考えを表明したのか。その最初の質問に対し、伊澤氏は次のように答えた。
「中間貯蔵施設の除染土について(国民の)理解が進んでいない現状に危機感を持ちました。どうして、わが町が中間貯蔵施設を受け入れるに至ったかが忘れられ、まるで『喉元過ぎれば熱さを忘れる』かのような『ひとごと感』があるように思えたからです」
2011年3月の原発事故では、大気中に放出された放射性物質の多くが福島県内に降り注ぎ、土壌を汚染した。その後、除染作業が進み、集められた放射性物質を含む土(除染土)は県内の各自治体が設けた仮置き場に保管されていたが、政府は放射線量の高い土壌を1カ所に集めて保管する方針を固め、まずは最終処分場ができるまでの「中間貯蔵施設」を福島県内に建設する方針を決めた。
しかし、手を挙げる自治体はない。そのため、福島第一原発立地自治体の大熊町が、続いて双葉町が施設建設の受け入れを決め、2015年から除染土の貯蔵が始まった。
伊澤氏が力を込めたのは、中間貯蔵施設の受け入れを決めた2015年当時の背景事情だ。
「町民が全国各地でお世話になっている状況で、双葉町は『安定した立場』になかったのです」と伊澤氏は打ち明けた。全町に避難指示が出された双葉町の住民は、各地で散り散りとなり、避難先で身を縮めるようにして暮らしていた。伊澤氏の言う「不安定な立場」とは、双葉町から放出された、放射性物質に汚染された土壌の引き取りを町民が避難先で求められるなどしていて、生活がしづらくなっていたことを意味している。
その決断を迫られていたころ、筆者は伊澤氏を取材したことがある。町長1期目の伊澤氏は「町民が避難先で肩身の狭い思いをしていることが何よりつらい」と、目を潤ませながら語った。かといって、中間貯蔵施設を受け入れると、復興の妨げになる恐れもある。まさに苦渋の決断だった。