除染土の再利用検討を表明した理由とは
除染土壌の搬入は2022年3月で終了した。仮置き場の除染土が消えた各市町村はひと安心だろう。その一方、伊澤氏の目には除染土を受け入れる側の苦悩が忘れ去られているように映っていた。だから、除染土の再生利用を双葉町内に受け入れることで、除染土壌処理への関心を喚起することが最大の狙いだった。
伊澤氏の決断にはもう一つの理由がある。
「(福島県外で除染土を)受け入れるところがないのであれば、少しでも(双葉町の施設で保管中の除染土の)総量を減らすことが必要と考えました」と語ったのである。
双葉・大熊両町に中間貯蔵施設を建設することが決まった2015年、政府は30年後の2045年までに除染土を福島県外に運び出すことを約束した。中間貯蔵・環境安全事業株式会社法には「中間貯蔵開始後30年以内に福島県外で最終処分を完了する」と明記されている。

中間貯蔵施設に積み上がった土壌は東京ドーム11杯分の1400万立方メートルに達している。政府は2016年、最終処分に向けて全体量を減らす方策を探る方針を決めた。今のところ全体の4分の3を占める放射線量の比較的低い土壌は道路建設の基礎に使うなどして再利用し、線量の高いものは最終処分に回すシナリオを検討中だ。
だが、低線量土壌の再利用であっても、実証実験を打診した首都圏の自治体からは拒否の意向が示されており、事業は壁に突き当たっている。一方で福島県外に建設されるはずの最終処分場の場所も決まっていない。
伊澤氏がことし2月、個人的見解と断った上で、双葉町内で除染土の再生利用を引き受ける意向を表明した背景には、福島でつくられた電力を消費してきた首都圏でこの問題に関心を持ってもらいたいとの考えがある。福島第一原発の立地自治体が率先して除染土の再生利用に取り組み、実績を積み重ねることで、少しずつ理解が広がればという期待である。