多死社会で法事の件数は増加する(写真:graphica/イメージマート)
(鵜飼秀徳 僧侶・ジャーナリスト)
コロナ禍で大打撃を受けていた寺院の収入は回復基調だが、中長期的には儀礼の簡素化によって漸減していく──。
一般社団法人良いお寺研究会(東京都品川区、代表理事・鵜飼秀徳)が全国7万6000ある寺院の総収入(寺院収入統計)を推計したところ、5000億円超の規模であることがわかった。コロナ禍前の水準に戻りつつあるとみられる。
多死社会を受けて弔事が増えていることが背景と考えられるが、今後は葬送の簡素化がますます進み、各寺院が収入を維持するのは困難な局面に入っている。

同研究会では、これまで社会変動が寺院運営に及ぼす影響を調査してきた。仏教界全体の市場規模の調査は2021年に続いて2度目である。
冒頭、寺院のマーケットの調査はどうしても精密さを欠いてしまうことをお断りしておく。日本の仏教界は160以上の宗派(包括法人)に分かれ、一部の大手教団のみが定期的(10年に一度ほど)に悉皆調査(宗勢調査)をしているに過ぎない。例えば、曹洞宗・浄土真宗本願寺派・浄土宗などである。
こうした一部の大手教団の調査報告や、公益財団法人全日本仏教会の各種「コロナ影響調査」、葬祭ビジネス市場調査、政府統計(人口動態・将来推計人口・経済センサス等)をつなぎ合わせ、現場感覚も交えて分析、補正しているのが本推計だ。ベールに包まれている仏教界の全体像を知るうえで、参考指標として捉えていただければ幸いである。
さて、前回調査ではコロナ前(2005年、2019年)と、コロナ初年の2020年を比較した。2005年は約4000億円規模の水準だったが、コロナ禍に入る前の2019年は約5700億円規模まで膨らんでいたとみられる。ところが、新型コロナ感染症によって、各地の寺院では法事や月参りなどの収入が激減した。初年の2020年では、約2700億円と半減以下になっていたと考えられる。
このたび、改めて最新のデータを使って算出したところ、寺院の総収入(市場)は推定で5000億円を上回る規模(2025年推計で約5100億円)と、コロナ禍前の水準に近づいていることがわかった。ただし、寺院経営の厳しさは変わらない。
算出の根拠について、まず土台になるのは寺院数と、1か寺あたりの年間収入(平均)である。文化庁の「宗教年鑑」によると、2023年末時点で仏教系の宗教法人は7万6280法人(伝統仏教と仏教系新宗教が混在)である。
寺院の収入の実体を知るのはかなり難しいが、例えば、浄土宗(6972か寺)の第7回宗勢調査(2017年)には、「寺院の平均年収は633万円」と明記されている(申告ベースであり、実際は上振れする)。
浄土真宗本願寺派(1万197か寺)の第11回宗勢調査(2021年)では、寺院収入の階級別分布表を示しており、各階級の中央値を用いて加重平均すると、おおむね710万円前後になる(護持会費・積立金を除く)。同様に曹洞宗(1万4521か寺)では、平均年収が720万円ほどである。
寺院収入の構造も解説しよう。