在日韓国人の墳墓(筆者撮影、以下同)
(鵜飼秀徳 僧侶・ジャーナリスト)
韓国で「墓じまいラッシュ」が迫りつつある。「埋葬後30年以内の墳墓の撤去」を制度化している韓国で、まもなく期限を迎える墓が続出するからだ。墓じまいの数は、今年から2029年までの5年間で70万基以上にも達しそうだ。
政府はその対策として火葬率を上げるとともに、自然葬を急速に普及させている。韓国の葬送の動きは、わが国を5年ほど先行していると考えられる。私たちは、韓国のケースから何を学ぶべきか。
韓国では今年1月、「葬事などに関する法律(改正法)」が施行された。その結果、法的にはグレーゾーンであった海洋散骨が、正式に合法となった。同法によれば、遺骨は粉骨した上で「海岸線から5キロ以上離れた海域に限り」散骨が可能という。
この法整備の背景には、韓国独自の葬送事情がある。ひとつは土葬に伴う土地不足の解消である。
韓国では1990年代半ばまで火葬率は20%ほどであった。これは韓国の儒教文化が影響している。儒教の先祖崇拝では、火葬は親から受け継いだ肉体を毀す行為とみなされ、忌避されており、基本は土葬である。韓国の伝統的な土葬墓は、円墳のような土饅頭だ。なので、墓所はかなりの区画面積が必要となる。
しかし、韓国の国土面積は日本の4分の1程度と狭く、およそ7割を山岳地帯が占めている。人口の増加と都市化が進むなかで、墓地の拡張や新設が次第に困難になってきていた。
2000年代に入って法律が整備され、「墓地増加による国土毀損を防止する」ことが明記された。同時に火葬推進が国策として始まり、火葬場の整備が加速した。現在、韓国は火葬率94%(2024年)まで急上昇。あっという間に火葬先進国になった。
韓国政府はさらに、墓の設置期間を設けた。「葬事などに関する法律」では、墳墓の設置期間を原則15年とし、延長は一度に限りと規定している。すなわち最長30年で、遺骨(遺体)は撤去し、改葬しなければならないのだ。韓国では「墓じまい」が、制度に組み込まれてしまったわけである。
期限を迎えた墓地は、自治体が公告を出し、遺族が改葬しなければ強制的に処理されるという。
そこでいよいよ、土葬時代の墳墓の改葬期限がやってくる。