奥多摩町の小河内ダムにある新道供養塔(撮影:著者)
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日本全国にはさまざまな供養塔があることをご存知だろうか。動物や虫、メガネやスマホ、届かなかった手紙から、菌類まで。かつては道路や橋も弔いの対象とされ、現在も各地にひっそりとその供養塔が残っている。一風変わった供養の世界をのぞいてみよう。(JBpress編集部)

(鵜飼秀徳 僧侶・ジャーナリスト)

※本稿は『ニッポン珍供養』(鵜飼秀徳著、集英社インターナショナル)より一部抜粋・再編集したものです。

全国にいくつもある「道」と「橋」の供養塔

 奇妙な供養のなかには、インフラにかかわるものがある。道路や橋の供養だ。

 東京都内でも複数の道路、橋供養塔が確認できる。全国にはかなりの数の道路、橋供養塔があると推測される。

 名称だけを聞いても、意味不明である。毎日、多数の人間や動物に踏まれ続ける道路や橋を不憫に思い、供養をするとでもいうのだろうか。

 いや、そうではないのだ。

 道路や橋、あるいは寺院などの大規模建造物などの工事をほぼ人力で行っていた時代は、危険と隣り合わせであった。

 だから、工事の前や後には宗教儀式を行った。その名残は現在にも受け継がれている。地鎮祭や棟上げ式、あるいは宗教施設の完成時に実施する落慶法要などである。

 古くから人びとは安全無事に工事を成し遂げることは、神仏の加護が必要と考えた。

 そのために完成時には、神仏に対する感謝と、犠牲になった工事関係者の鎮魂を込めて供養塔を立て、祀ったのである。

 東京都渋谷区の笹塚交差点近くに道供養塔がある。

 目の前は多数の車が行き交う甲州街道である。甲州街道の上には首都高速道が走るが、この供養塔は江戸時代につくられた古いものである。

 ビルとビルの間のわずかな露地を入ると牛窪地蔵尊という祠(ほこら)がある。

 その参道に江戸時代に建立された道供養塔や道祖神のほか、近年に建てられた交通事故遭難慰霊碑が並んでいた。